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イメチャで登場させる人物のキャラの背景...というか、裏設定。
それを物語風に書き上げたものです。よろしければ、御覧ください。
申し訳ありませんが、入室は控えてください。

また、以下のページで、文庫本スタイルの形式でPDFファイルでアップしてあります。
WEB上でご覧いただけますし、DLも可能です。

http://goo.gl/xZKao5

--- オリジナルストーリー (モノローグ/マリア) PDFファイル ---
この下に表示された各タイトルよりどうぞ。
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おしらせ無言時間が20分を超えたため、マリアさんが自動退室しました。  (2015/9/11 22:33:59)

マリア「お、起きたら、うがいしねぇとな……。」  あたいの頬は少し赤らんでいたかもしれない。   (2015/9/11 22:13:01)

マリア 三人で交わした安ワイン…。あの安ワインの旨さを、あたいは生涯きっと忘れないだろう…。  そんな予感がした。   (2015/9/11 22:12:53)

マリア「美味かったな…。」   (2015/9/11 22:12:46)

マリア それにしても、「初体験のちっぽけなクリスマスパーティ」は本当に楽しかった。つい、さきほどの事を思い出して笑みを浮かべるあたい。  心の中にひとつ、初めて愉しい思い出が刻まれた。「今夜はぐっすりと眠れそう…。」だ。そう独りごちると静かに瞼を閉じる。   (2015/9/11 22:12:39)

マリア 気を取り直して、もう一つ伝えなければいけないことがあった。お礼さえまだだったのだ。 「……助けてくれて、ありがとう。」  眠った小男に、そう語りかけると、あたいは自分の寝場所へと戻る。瞼を閉じたままの小男の頬が少し緩んだ。  薄目を開けて、そんな情景を見てしまったマスターが慌てて目を瞑る。 「マスターもね……。」  ちらりとマスターへも視線を向けてそう呟くと、あたいはそっと体を横たえた。   (2015/9/11 22:12:29)

マリア「これの…ことか?」  黙って頷くあたい。 「実はあたい。あんたの……」  そこまで、口に出しかけたところで、小男の人差し指が「しーっ」とでも言うように、あたいの唇を遮る。 「二度も謝ることはねぇ。」  やはり、気づいていたのか…と、思う。 「で、でも…。あたい……。」  さらに言葉を続けようとするあたい。その髪をくしゃくしゃと掻き乱すように撫でた小男。 「気にすんな。」  奴はもうひと言そう付け足すと、あたいの頭を引き寄せる。そして……。何てことか。あたいの可愛いピンクの唇に、その薄汚い唇を軽く重ねたのだ。 「う、嘘だろ?」言葉にはしないものの、一瞬たじろぐあたいに、見事なまでに似合わないウインクを一つ見せると、奴は再び目を瞑った。「わわわ……。」と数秒間、固まってしまったあたい。   (2015/9/11 22:12:21)

マリア 伝えなければいけないことが……ある。  あたいは、だらしない顔をしてソファに眠る小男の顔の前に、まるでキスでもしそうな程、顔を近づけて隣にそっと座り込む。  人差し指で奴の鼻の頭を、つんつんと突付いてみる。全裸に毛布を被っただけの姿は、もしも見てる人がいるとしたら、多分「ねぇ。…エッチしよ。」と誘ってるかのように見えるかもしれない。目を覚ましてくれない小男の鼻をもう一度突付くと、「……ん?」っと、奴の片目が開く。  顔をさらに急接近させ口を奴の耳元へ寄せると、ひそひそ声で呟くあたい。 「……ごめんなさい。」  もう一方の目を開けながら、ポケットに手を入れ財布を出した小男は、二つ折りになった小さな紙切れを取り出す。……見覚えがある。紙切れを開き、書かれてある言葉をあたいに見せた小男が、ひそひそ声で返す。   (2015/9/11 22:12:08)

マリア「…ったく。やり過ぎだってば。」  ぶつぶつとまだ拗ねてるあたいに、毛布を掛けてくれたマスター。  散々笑い転げた三人もそろそろ睡魔には勝てなくなってきた。三人三様、ソファの上に勝手に横になると、やがて男どもの鼾が響き渡る。眠り込むオヤジ二人の顔を交互に眺めながら、あたいの心の中には温かいものが広がっていく感じがした。   (2015/9/11 22:11:56)

マリア マスターが「やれっ」と言わんばかりにクイッと顎を向けると、待ってましたとばかりに「へいっ」っと発して使いっ走りになった小男があたいの背後に回る。  端を摘まれ下へと引きずり降ろされるショーツ。生まれたてのような初々しいお尻がプルンと剥かれ、その谷間が恥ずかしそうに顔を出す。 「こ、こらぁ…。や、やめろぉぉ…っ。」  必死に前を抑えるあたいと、後から引っ張る小男の間で、ショーツは細長く引き伸ばされていく…。 「や、やめてくれ…。た、頼むよぉ…。あ…ぁぁん…。や、やめてぇ…っ…。降参。降参だってば…。お店の手伝いでも…なんでもするから。あんっ…いやぁん…。」  エッチする時に脱ぐのとは訳が違う。こんなに恥ずかしそうな表情を見せるのは初めて。でも、無理やり裸にされてしまうっつうのに……。こんなに楽しそうな表情を見せたのも初めてだった…。 「そのくらいにしといてあげようか。」  あと僅かで割れ目さえ晒してしまいそうなところで、マスターが小男にストップを掛ける。   (2015/9/11 22:11:47)

マリア「参った…。参りました。」  カクっと、うな垂れたあたい。 「いよいよ…だねぇ。」  ニンマリと笑みを浮かべつつ、ゴクリと唾を飲み込む真似をしてみせるマスター。 「じょ、冗談…だろっ?」  真剣そうな表情に、思わず席を立って後ずさるあたい。 「頼むよぉー。み、見逃して。こ、これだけは…。い、イヤだってば…。」  唯一残された薄地の白いショーツ。コレだけは剥かれる訳には行かなかった。初対面からヘアレスのあそこを見られるのだけは何としてでも阻止したい。  小さく震える両手で前を必死に抑えるあたいは、内腿を擦り合わせながらオロオロするばかり…。   (2015/9/11 22:11:36)

マリア「…もうっ。勘弁しとくれよーっ。」  いつしか始まった脱衣ポーカーは、夜明け近くまで続いていた。ポーカーフェイスに長けるマスターが強すぎる。もう一人勝ちもいいとこ。あたいは役になってないカードをテーブルへと投げ捨てて、何度目かの泣き言を吐く。 「だめだめ。こういうのは、ちゃんとルールを守らないと白けちゃうから。」  そう言ってニヤリと笑うマスター。 「それにしたって、手加減っつうもんが…。」  責めるような二人の視線に渋々背中へと腕を回すあたい。ブラのホックを外すとゆっくり肩紐を下ろしながら片手で胸を隠す。今回は負けを逃れ、あたいの胸元へとニヤついた視線を寄越す小男だってあたいと大差ない半裸姿だ。 「おっし。これがラストだ。」  嬉々としてカードを配り直すマスター。あたいと小男は視線を合わせると、肩をすくめた。   (2015/9/11 22:11:26)

マリア「なるほど…ね。」  マスターが燭台に乗せられた一本の蝋燭を持ち出してきては、テーブルの上へと立てつつ相槌をうつ。さらに忙しく立ちまわるマスターが、安ワインと三客のワイングラスを手に戻ってくる。 「じゃあ、シャバに出てからのクリスマス初体験といこうか。」  マスターがワインを三つのグラスへと注ぐ。 「いいねぇ。初体験も可愛い娘も、俺ぁ、どっちも大好きだぜ。」  小男がそう言いながらグラスを翳す。店の灯りは消されて、暖炉の灯りと蝋燭の灯火だけ。外はものすごい音で唸る猛吹雪。あたいもマスターもそれに倣ってグラスを手にすると、蝋燭の灯火の上で三つのグラスが重なって素敵な音を立てた。 「メリークリスマス!」  マスターがそう声を出したが誰も復唱しない。「おいおい…。」とおどけた顔をするマスターに、遅れてあたいも小さな声で同じ言葉を呟いてみた。   (2015/9/11 22:11:13)

マリア「がっはっは…。餓死しなくて良かったな。」  大声を立てて笑いながらあたいの肩を叩く小男。マスターは腹を空かせたあたいの為に、厨房へと食べ物を取りに向かう。 「冗談じゃ無ぇよ…。全く。笑い話に聞こえるかもしんねぇけど、凍死か餓死かの瀬戸際だったんだぜ?」  クリスマスパーティの余り物と、小分けに切られたクリスマスケーキをマスターは用意してくれた。 「ありがてぇ…。戴くよ。」  腹が減って死にそう…っていうか、本当に瀕死だったんだ。だけど、貪るように食いたかったのに…思ったほどに胃は受け付けてくれなかった。 「散々なクリスマスだったな…。」  幾つか口に運んだものの、途中で食べる手を止めたあたいに、「遠慮しなくてもいいんだよ?」といった風のマスターがそう声を掛ける。 「クリスマスなんて、昔から一度もいい思いしたこたぁねぇよ。」 「ご馳走さん。」とばかりに小さく頭を下げるあたい。「修道院に付された孤児院なのに…?」と顔を見合わせる小男とマスター。 「あんな儀礼的なことばかりでさ。つまんねぇったらありゃしない。だから、あそこを出てからもクリスマスなんて一度も祝ったこたぁ無ぇのさ。」   (2015/9/11 22:11:03)

マリア しばらくして、あたいは目を覚ます。  そっと開いた瞳を覗き込むオヤジの顔が二つ、すぐ目の前に現れた。 「きゃあ…あああーっ。」  飛び起きるように体を起こすあたい。 「きゃあ…は、ねぇだろ。きゃあ…は。」  狼狽するあたいの前で、笑いながら小男が呟く。隣でうんうんと頷くマスターの柔和な顔。 「いったい…あんな所で寝てるなんてよ。ヤってる途中で彼氏が逃げ出しちまったか?」 「な、なんだ。このノリは…。」と、頭を抱え込みたくなる。言いたくねぇ事は言わねぇし、言えねぇ事も言わねぇが、助けてもらっておいては、黙ってる訳にもいくまい。あたいは、ぼそぼそっと経緯を語り始めた。  孤児院で育った事、都会に行って戻ってきた事、プレゼントを子供たちに届けに行った事…などなど。商売の事はまだ話せなかった。ただもう施設長のシスターの事に限ってはあらんばかりの罵詈雑言を使い、手振り身振りも加えて大げさに説明した。 「あの婆さんが口を挟まなきゃ、あたいはあんな目に会わなかったんだよ。」  なおも罵り続けようとするあたいを制するように、きゅるるっっとお腹が鳴った。   (2015/9/11 22:10:53)

マリア 暖炉の前に正面に向くよう急遽向きを変えられたソファの上に、あたいは寝かされた。当然の様にあたいを受け入れ、あたいを寝かせつけることを優先した後、改めて、扉を閉じる白シャツに黒いベストの男。 「こいつは、タダ事じゃねぇな。」  外を吹きすさぶ猛吹雪を眺めて男がぽつり。窓には雪が狂ったように叩きつけられている。 「ああ、ああ…。とんでもねぇめに会っちまった。済まねぇな、マスター。」  コートを脱ぎ捨てた小男。額はおろか、顔中に噴き出た汗が氷になって、その上に雪が吹き付けられた酷い有様だ。手で顔を拭うとあたいの容体を確認するように覗きこむ。 「その娘か? 前に話してた…。」  心配そうにあたいの寝顔を覗き込む小男に、マスターと呼ばれた男が近づくと、そう声を掛ける。 「ああ…。この娘が、マリアだ。」  小男と雁首を並べるように、マスターもあたいの寝顔を覗き込む。 「…こりゃ、確かに可愛い娘だ。」   (2015/9/11 22:10:43)

マリア こうやって、あたいは救われた。  あたいと変わらぬ背丈しか持たない小男は、首に巻いていたマフラーをあたいの頭に覆うように被せると優しく抱え起こす。あたいを背中におぶったまま、猛吹雪へと変わりつつある雪の中、およそ五キロにも渡る一本道をひたすら歩く。その背中から時折、様子を伺う奴の声が聞こえていた。その背中は、おぼろげなあたいの意識の中で、たった一つの温もり。心地よい素敵な暖かさだった…。  あたいをどうにか町へと連れ帰ってくれた頃には、既に日付も変わって、町は昼間とはうって変わって閑散としていた。馴染みの古いバーにまだ灯りが付いているのを見つけた小男は、あたいを背中に乗せたままバーの扉を開く。  突然、扉が開かれる。賑わっていた客は帰った後で、疲労困憊の店主風の男が暖炉の前のソファに腰掛け一息つきながら、ビールを呷ってたところだった。強い風を伴った雪が店の中へと舞い込む中、思いもよらぬ来客にも嫌な顔ひとつせずに、彼は迎え入れてくれた。   (2015/9/11 22:10:33)

マリア「マリア! おいっ、マリア。起きろ。起きろーっ。」  死んだ筈なのに、あたいの名前を呼ぶ声がする。その声は遠くから聞こえて来てるようでもあり、耳元で怒鳴られているようにも思えた。 「天国でも、寝坊は禁止ってか…。」  ここに至っても口の悪いあたいが悪態をつく。ここが天国と限るわけではあるまいに…。 「こらー。マリア。目ぇ覚ませーっ。」  ベチベチっと頬を叩く音だろうか。微かな感触は感じるものの全然痛くない。体を無理やり起こされ、肩を散々揺すられたあたいは、面倒そうにようやく瞼を微かに開き始める。「おいおい、よしとくれよ。天使っつうのは、もっと可愛いもんだぜ。」あたいの瞳におぼろげに映ったソレは、それはもう…貧相な顔立ちの天使だった。   (2015/9/11 22:10:23)

マリア 本当にこれが最期と覚悟を決めたあたい。二十数年の短い人生だったが、まあ…そう悪くもないとも思う。 「もう少し、いいモン食いたかったな…。」  まだ霜降り肉に執着するあたい。霊になったら肉の背後霊にでもなりかない。 「もう少し、ヤリたかったな…。」  こっちは、そこそこ満足してる。あたいは快楽を受けるために生まれてきた…そううそぶきたくなるほど、豊かで彩りのある経験。ひとつだけやり残したこともあるけど…。 「もう少し…。」  あたいの瞼がゆっくりと閉じていく…。   (2015/9/11 22:10:14)

マリア「余計なこと、するんじゃないよ。」  そんな雰囲気を一瞬で振り払うように、背後から冷たい声が響いた。施設長のシスターだ。寮母といえども逆らうことは出来ず、賄いの手を止めなくてはならない。部屋の空気が張り詰める。 「あ。あたい、すぐ帰らなきゃいけねぇから…。」  そう言って、あたいは立ち上がる。部屋をでる間際にちょっとだけ振り返っては、施設長に見つからないように寮母へと小さく手を振ると、申し訳無さそうな顔をした寮母も、小さな笑顔を無理やり作って手を振り返してくれた。   (2015/9/11 22:10:00)

マリア 中へと入ると、たちまち子供たちが集まってくる。床に膝をついて一人ひとりにささやかなプレゼントを配っていると、ちょっと肥満気味のシスターが姿を見せる。孤児院の寮母だ。 「あらあら、マリア。今年も来てくれたんだね。」  あたいを見て、眉を顰めない唯一のシスターだ。あたいが洗礼を受けた小さな頃から、見守ってくれてた笑顔に再会出来て、心が温かいものに触れたように和みだす。  そう、あたいは洗礼を受けていた。だからマリア。洗礼名が…マリアなのだ。アンリエッタ・マリア…本当の名前がそこに冠されていた。 「せっかく来たんだから、食べて行きなさいよ。余り物ばかりだけど、今夜の余り物はちょっと贅沢よ。」  寮母が食事を出してくれようとした。腹ぺこだったお腹が、きゅるるるっと鳴って、あたいは顔を赤らめ、冷やかす子供たちの明るい笑い声が響く。   (2015/9/11 22:09:52)

マリア クリスマス・イヴ。その夜、あたいは郊外にある修道院に併設されていた孤児院へと向かったのだ。あたいが育った場所でもある。この町を離れていた時も一年に一度、クリスマス・イヴには必ず訪れていた場所だ。  小さな子供の頃から気が強く、反抗心の塊みたいだったあたいを可愛がってくれる者は、当時からも限られていた。中でも施設長でもあるシスターとはとことん気が合わなかったものだ。今でもこうやってプレゼントを届けに来ただけでも、「何しに来た。汚らわしい売女め。」と、でも、言わんばかりの顔であたいを睨めつける。 「メリークリスマス。」  こんな仕打ち、今さらなんとも思わないが、ありったけの笑顔で応える。宗教なんて…とハナから莫迦にしてるあたいから、こんな言葉がかかることこそ侮蔑とでも感じてくれれば、それはそれで嬉しい。「あんたに、こんな天使の微笑みが出来るかい?」と、若さを失った施設長へのあてつけでもあった。   (2015/9/11 22:09:19)

マリア「凍死…しちゃうんかな。」  それは痛みも何も感じないと聞く。緩慢な死。その最後に思い浮かべることって何だろう。 「いや。その前に餓死しちまいそうだ…。」  息絶えた体が雪の中から掘り起こされて検死へと回され、死因が特定される…。結果「餓死」。やだやだ。それだけは絶対に避けたい。なんたって恥ずかしすぎる。「お願いだよ、神様。そこにいるんなら、餓死だけは止めて。せめて凍死にしとくれよ。」ん…。まさか最後の願い事がこんなことになろうとは。 「くっそ…。あの肉、食っとくんだったな。」  冷蔵庫に用意した霜降り肉を思いつつ、何かないかとポケット探ると、薄れた感覚の指先に引っかかったものがある。 「ああ。そっか…。」  孤児院でプレゼントのお返しにと、小さな男の子があたいにくれたクリスマスプレゼント。それは一粒のチョコレートキャンディだった。緩慢な動きで口へと運ぶ。 「最後の食事ってか…。ありがと、坊や。」  舌の上の乗せたキャンディが、少しづつ溶け出す。甘いチョコが小さくなっていくのを惜しみつつも、瞼の重さに耐え切れなくなってきた。 「せめて、コレくらい最後まで食わしてくれよ。」   (2015/9/11 22:09:07)

マリア ところが…だ。腹が減ってぶっ倒れちまった。こんな人通りも少ない郊外の一本道で…。腹が減って力が出ない。一度倒れてしまうと起き上がるのは困難を極めた。弱った体を睡魔が襲う。 「あたいも、とうとう焼きが回っちまったか…。」  空腹すぎるお腹は、もはや音さえ鳴らない。 「あのシスターめ…。」  あたいとは特に折合いの悪かった施設長でもあるシスターを罵しりたかったが、そんな言葉も探すのも面倒に思えてきた。 「は、腹減った…。」  もう何度繰り返したろう。この言葉。生まれてこの方、あたいが一番使ってきた台詞かもしれない。瞼が閉じそうになる…。 「あたい…死んじゃうんかな…。」  死など怖くは無かった。ただ、自分がこんな死に方をするとは神様も酷なもんだ、と思うだけ。遠くから微かにクリスマスソングが聴こえていた。   (2015/9/11 22:08:57)

マリア それは、五年間の都会生活を離れこの町へと戻って来てから、初めて迎えた冬。クリスマス・イヴのことだった。孤児院の子供たちにささやかなプレゼントを届けに行った帰り途の惨事だ。  ここ数日、身を煩わせる小さな出来事が相次いで起こって、あたいはまともに食事を摂っていなかった。摂る暇が無かった…というのも、言い訳っぽい。要するに生活資金に行き詰まってた訳だ。ただ悲観してはいなかった。クリスマス・イヴで賑わいを見せる街中は、そこらじゅう獲物だらけだ。頂こうと思えば、すぐに頂いちまえる素敵な状況が、あたいを油断させていた。  独り暮らしを始めてからは、クリスマスなんぞ祝ったことはないが、人並みに美味いものは食ってやろうと、冷蔵庫には霜降りの分厚い肉とあたいの舌には判りそうにない大層な値段のワインさえ用意してあった。   (2015/9/11 22:08:48)

マリア 凍てついた寒い夜。音もなくしんしんと振り続く雪。道端で前のめりに倒れた華奢な体にも静かに雪は降り積もる――。真っ白に、全てを覆い尽くし降り止まぬ雪は、まるで汚いものを隠すかのよう…。あたいの体も雪の中に埋もれつつあった…。   (2015/9/11 22:08:40)

マリア【第四話】   (2015/9/11 22:08:33)

マリア    (2015/9/11 22:07:43)

マリア    (2015/9/11 22:07:41)

マリア    (2015/9/11 22:07:39)

マリア    (2015/9/11 22:07:36)

マリア    (2015/9/11 22:07:34)

マリア 澄ました顔でそんな言葉をあっさりと吐く小男。 「ちょ…ちょっと待っとくれよ…。ねぇ…ま、待ってよ…。」  バーのマスター…。普段は柔和な笑顔を見せているものの、この手の事には超一流との噂も聞いたことを、あたしは思い浮かべる。  そして、階段を上がる靴音が聞こえませんようにと、必死に祈ってた…。   (2015/9/11 22:07:32)

マリア 自分の心情は把握出来てなかったものの、小男の言ってることは、多分図星。あたいは、何を想像してるのか…何に使うのか問われるのが恥ずかしくって、こっそり持ちだしちまったんだ…。「何もかもお見通しって訳かい…。」そんな強気の台詞はもう吐けない。 「おっと…。こんなおまけもあったっけな。」  大きな財布の中から、クロム光沢に輝く金属製のロータまで取り出す小男。 「マリアの言う通り…。さすがに今夜は俺がやるには、ちょいと具合が悪い。ま…でも、心配するな。ついさっきマスターに連絡は入れてあっから…。」   (2015/9/11 22:07:22)

マリア あたいの柔肌から指を離した小男がベッドから腰を上げると、ソファの前のテーブルへと向かう。上に置かれてあるバッグを勝手に開けると、何やら物色してる様子。やがて、奴は一本の細い金属の棒を見つけ出した。そう、あたいがバーからくすねてきた…あのマドラーだ。 「このマドラーをくすねて、逃げるように出てったマリアは可愛かったぜ? 欲しけりゃそう言えゃ、くれるだろうことはわかってる筈なのによ。」   (2015/9/11 22:07:13)

マリア 何のことか良く判らなかった。でも、確かに小男の語る言葉の外には、いかにも「あたいを守るための秘密の協定」やらの存在を匂わせてた。若い女が単身でやばい商売を続けていくのは大変なことだ。それでも、あたいは一人で切り抜けてきた…そう思ってたけど。 「だから…判ってくれねぇかな…? これは俺らの義務ってこった。心踊る愉しい義務だがね…。上手く説明できねぇけどよ。本気なんだぜ? マリアを守りたい気持ちってのはよ…。再優先事項ってやつよ。」 「秘密の協定」やらの存在は、薄々気づいてはいた。だからと言って、それは奴らの勝手な言い分であって、唯々諾々と従うつもりなんて、あたいには無い。   (2015/9/11 22:07:00)

マリア「何、言ってんのさ…。こんな時に。もっと…先にしなきゃいけないことがあんだろ?」  あくまであたいは強気で、小男にそう食って掛かる。 「第一、何だよ。女房に逃げられて意気消沈してる奴が、何でこんな事出来んだよ?」 「まぁな…。それを言われちゃ身も蓋もねぇんだが…。」  頭を掻きながら苦笑いを浮かべる小男。 「俺らは…結局のところ、マリアに惚れてんのさ。お前ぇを極上の女に仕上げるのは、余所者には絶対任せられんってな。」  頬を撫でる手。その人差し指が首筋を通って鎖骨まで至ると滑らせるように優しく擽りだす。 「判ってっか? 俺ら…結構我慢して来たんだぜ?」   (2015/9/11 22:06:53)

マリア「心配いらんって。優しく…気持良く…少しづつイイ女へ変えてやるからよ。」  ニヤついた笑顔でベッドの端に腰を下ろした小男の視線が、いつになく恥じらいに満ちた全裸のあたいを、舐め回すように撫でる。裸などこいつには何度も見られているが、こんな拘束された姿ほど恥ずかしいものは今までに無い。 「お前ぇはよ…。今だって勿論イイ女だ。だがよ? 考えてみろよ。仲間うちの筈だったマリアが余所者に犯られて、もっとイイ女に変えられていくのを黙って見過ごせる訳ねぇだろ?」  小男の掌が、優しくあたいの頬を撫でる。   (2015/9/11 22:06:42)

マリア「お…。起きたかマリア。」  ソファで休んでいた小男が鎖の音に気づいて声を掛けてくる。 「な、何だよっ…これは一体。」  狼狽した声が、それでも強気に抗議の声を上げる。 「まぁ…落ち着け。お前ぇを痛めつけたり、傷つけたり…そんなことは在り得ねぇから…。ただ…マリアにはもっとイイ女になってもらわねぇとな…。」  ソファから身を起こした小男がベッドへと向かって来る。 「ちょ…ちょっと待て…。近づくな。」  囚われた両手で胸を隠す。座ったままじりじりと後ずさりをするあたい。でも、これ以上後ずさりをすると両手は胸から離れてしまう…。   (2015/9/11 22:06:33)

マリア「んっ…んん。」 「変な夢、見ちまった…。」夢うつつの中から現実へと戻ったあたしは、頭を二・三度振って目を覚ます。何だか妙な感覚だ。体を包んでるはずのバスローブの感触は見当たらず…これは全裸? それに何だこの手首にまとわり付く冷たい金属の感触。寝ぼけた眼に飛び込んできたのは、手錠に繋がれた姿だった。 「な、何よっ、これ。」  いっぺんに眠気も吹っ飛ぶ。手錠に繋がれた手を引くが、限られた範囲に自由を制限され、それ以上動かすことは叶わない。手錠に繋がれた鎖はパイプベッドの端に繋がれているようで、引かれた鎖がチャリンと音を立てる。   (2015/9/11 22:06:16)

マリア 昼近くになって、ようやく小男が目を覚ます。体を起こして部屋を見渡すが、もうそこにあたいの姿は無い。ベッドの脇には綺麗に洗濯された服と下着が置かれ、その上に二つ折りになった小さな紙切れを見つけた筈。あたいが残した書き置き。その頃あたいは、通りに面したビルの壁に背をもたらせながら、行き交う人々を遠目に眺めて、次の客を物色してた。 「あいつ、いつ頃気づくかね…。家に帰ぇるまで気付かねぇかもしんねぇな…。お莫迦な奴だし。」  クスッと小さな思い出し笑いを一つ浮かべると背を起こす。気持ちが少し軽くなると、あたいは昼飯へと歩き出す。右手に奴からくすねた三枚の紙幣を持って…。   (2015/9/11 22:06:03)

マリア「ごめん…。これだけはどうしても必要なんだ。」  小男が起きだしてこないうちに、やって置かなければいけない事がある。  財布の中から三枚だけ紙幣を抜き取ると、残りの全ては財布に残したまま、小男の上着のポケットへと返す。腰が崩れ落ちてしまいそうな安堵感が全身を襲う。あたいは、この時初めて神様っつうものに感謝した。「返す機会を与えてくれて…ありがとう。」と。   (2015/9/11 22:05:51)

マリア「あんたの身の上話など興味はねぇが、災難だったな…。夜も遅ぇし、この雨も止みそうもねぇ…泊まってくかい?」  こんなあたいを娼婦とでも思い込んだのだろう。「…そんな持ち合わせはねぇ。」と来たもんだ。普段なら、「あたいは娼婦じゃねぇ!」と殴り飛ばすところだが、さすがに今夜は負い目が大きい。 「金は、取らねえよ…。まぁ…好きにしなっ。」  そう告げると部屋の明かりを消しベッドへと潜り込む。いつしか睡魔に襲われ寝付けなかった体は浅い眠りに落ちる。  どのくらい眠っただろうか。あまり眠れた気がしない…。何やらもぞもぞと蠢く気配に目を覚ましたあたいは、胸の谷間に顔を埋めて小男がぐっすりと眠り込んでる姿を見つけ愕然としちまう…。 「ず、図々しい奴…。」  だが、怒る気は起きなかった。  小男の髪を優しくひと撫ですると、起こさぬよう注意を払いながら、そっとベッドを出る。   (2015/9/11 22:05:43)

マリア シャワーから上がって来た小男がバスローブ姿で、やつれた表情を見せながらソファに座り込む。あたいお手製のなんちゃってカルボナーラを「不味い不味い」と言いながら全て食べ終えるとひと心地ついたのか、やがてゆっくりと小男は話し始め、あたいはひたすら奴の話を聞き続けた。  危惧を覚えていた通り、小男の経済状況は裕福なものでないことを知る。小学生に上がったばかりの息子と、生まれたばかりの娘…との四人家族。あの大金が、この家族から失われるのは、家庭崩壊にも繋がりかねないことは容易に想像できた。だいたいコレほどの大金を持って出かけた旦那が夜になっても返って来ない…なんて、今、この瞬間も奥さんは気が気では無い筈。  こんなことも判った。小男は自分の不注意で落としたものだと信じて疑っていない様子。呆れるほどにおめでたい奴だ。小男の話しぶりから、あたいがさっきぶつかった「股間に釘付けにされた女」だとは思いもよらぬらしい。   (2015/9/11 22:05:32)

マリア「ちょ…ちょっと。大丈夫っ?」  反射的に、座り込んだ小男を抱き起こそうと手を伸ばすあたいを、「誰だ? あんた。」と呟きながら力ない顔を上げる小男。  とりあえず、こんな土砂降りの中、放ったままにはしておけない。小男の腋下に肩を挟んで体を起こしアパートメントの中へと押しこむ。ふらついた足取りで階段をようやく登り切ると、廊下の一番奥、あたいの部屋へと招き入れた。  上着を脱がされても、ただただ呆然と立ち尽くしてる小男にバスタオルを持って近づくとずぶ濡れの髪の毛を拭き上げる。 「服は、もうどうしようもねぇな…。洗っとっから、とりあえず熱いシャワーでも浴びといでよ。体、冷えきっちゃってるし…。」  あたいに腕を取られてバスルームへと案内されると、それでもどうやら一人で服を脱ぎ捨てると奴はそのままバスルームへと入っていった。   (2015/9/11 22:05:19)

マリア やがて、辺りが暗くなってくると小男の姿も見えなくなる。気になって気になって、思わず部屋を飛び出すと階段を駆け下りる。一階の小さなロビーのような玄関先から、扉を開いて外を覗く。暗がりに目が馴染んできても走り回る男の影はもうない。一歩二歩と前に出て、もう少しだけ見回してみる…。「諦めて、帰っちゃったかな…。」そう考えながら、中へ戻ろうと踵を返すと、すぐそこに走り突かれてぐったりとなった小男がアパートメントの壁に背をもたらせて、ずぶ濡れの姿で座り込んでいるのが目に入ってきた。   (2015/9/11 22:05:08)

マリア「どうしよう…。」  格子の窓に土砂降りに変わった雨が激しくぶつかり始める。二階の窓から通りを眺めながら「はぁ…っ」と小さな溜息をつく。  通りに開いた傘の花は、ひとつまたひとつと消えて、いつの間にか人通りはまばらなものへと変わってる。そんな中、傘もささずにびしょ濡れになって、通りを何度も何度も行ったり来たり走り回ってる影に気づく。「さっきの…あの、小男だ。」瞬時にそう直感する。窓ガラスに額を付けて食い入るように眺めてみると、あの貧相な格好は、たしかにあの小男に間違いない。「大変な事をしでかしちまったのかもしれない…。」とあたいは青ざめる…。居てもたっても居られない…。でも、あたいは外を駆けずり回る小男に財布を返しに行く勇気を、その時は持てなかった。   (2015/9/11 22:05:01)

マリア「本当にごめんなさい。い…急ぐのでこれで…。」  小走り気味に去り行くあたい。勿論、あたいの手にはしっかりと財布が握られてた。 「あ…。いいっていいって…。気をつけてな。」  財布をスラれたことにも気付かず、目尻を垂らしてニヤついたままの小男は、小さく手を振りながら、走り去るあたいのキュートなお尻を呆然と眺めていた。  あたいの股間に釘付けだった小男、たぶんあたいの顔なんか覚えちゃいまい。 「ちょろいもんさ…。次は気ぃつけな、お莫迦さん…。」  降りだした雨に、急いでアパートメントへと戻ったあたいは、ベッドに腰を下ろすとそう呟きながら、財布を開ける。 「え…ええっ…?」  そこには、小男には不釣り合いな目を見はるほどの大金が入っていた…。 「こ、こんな積りじゃなかったのに…。」  少しばかり心が傷んだ。  「いや、あんな格好してても実は成金野郎なんだって…。」そんな言葉で自分を落ち着かせてみようと企む。でも、無理。小男の姿を何度も良ーく思い出してみても、決して裕福そうには見えなかった。心がすごっく傷んだ…。   (2015/9/11 22:04:42)

マリア「や…やるじゃん…。」  あたいは妙なところに感心してしまった…。とはいっても獲物を見逃してやるあたいじゃない。おっし…今だ。 「きゃっ…ぁん。」  小男にぶつかっておきながら、その場に尻もちを付いて倒れこむ。ここまでは予定通り。 「ご…ごめんなさい…。ちょっと余所見してて…。」  申し訳無さそうに謝るあたいを、少し怒った表情で睨むものの小男の顔つきには迫力はない。「ちょっと、サービスしてやろう…。」小さな悪戯心が湧き上がるあたい。尻もちを付いて投げ出してしまった両脚が小男の目の前で開かれてしまってる。意識的にもう少し広げるとミニは捲れ上がって、白いショーツをチラリと覗かせる。奴の視線は釘付け。あたいは恥ずかしそうに股間を両手で隠しながら立ち上がる…。勿論、演技だけど。   (2015/9/11 22:04:22)

マリア「どこかに、美味しい獲物でも転がってねぇかな…。」  さすがに小声でそんなことを呟きながら歩いていると、手頃な客が見つかった。  通りを行く美人に右へ左へと視線を飛ばしながら、にへらっと厭らしそうな笑みを浮かべてふらふらと歩いてる貧相な小男。たいした金は持って無さそうだが、当面の飯代くらいにはなるだろうと、あたいはふんだ。その歩く姿は危なっかしくて、おいおい大丈夫かよ…と思う。時折、つまづき転びそうに見える。 「あっ…ああ、危ないっ。」  思わず両手で目を覆っちまう。横を通り過ぎる抜群のプロポーションを持つ美女に目を奪われた小男のすぐ前に電信柱が…。しかし、次の瞬間、耳に目でも付いてるかのように、ヒラリと障害物をかわす。   (2015/9/11 22:04:12)

マリア 体を丸めたまま瞼をそっと閉じたあたいは、いつのまにか夢うつつの中へと迷い込む。それは、あたいがこの町に舞い戻ってきた三年前の事――。  部屋を借り、最低限の家具を揃えただけで、なけなしの金はあっという間に無くなって、あたいは当面の生活費にも困ってしまってた。故郷と呼べる町ではないにせよ、あたいが唯一、心の拠り所に出来るのはここしかない。  孤児だったあたいには両親の記憶はなく、おぼろげに思い出せる遥か昔の遠い記憶は、この町から始まるのだ。 …といったところで、この町に身寄りがいる訳でも無ければ、知人・友人が住んでる訳でもない。辛うじてあたいとこの町を繋ぐのは、郊外にある修道院に併設されていた孤児院。…あたいが育った場所。  無論、修道院に無心しに行くわけにはいかなかった。だからといって絶望するのは早い。なんたってあたいには腕があったから。それは洗練され卓越した技術。目にも止まらぬ早業で上着の内ポケットから、財布を盗みだす…即ちスリの技術だ。加えて、ごく自然に人にぶつかってはしおらしく謝る演技にも長けている。あたいは、この技術で都会での五年間を生き抜いてきたのだ。   (2015/9/11 22:04:00)

マリア「寝そびれちまったねぇ…。」  しばらく時間が経過して…。テーブルを挟んで向かい合わせに座ったあたいらは、インスタントコーヒーをマグカップで飲みながら、ぼーっとしていた。  窓に打ち付ける激しい雨の音が何となく心地よい。 「で、どうすんのさ? あたいだっていつまでも置いとけねえよ?」  久しぶりに口を開いたあたい。 「判ってるって…。」  怠そうに答える小男。 「そういえば……。あの日も、確かこんな雨の夜だったな…。」  不意に話が飛ぶと、背もたれに頭を預けた小男が遠い目をして、ぽつりと呟く。 「…その話は、止めて。」  そう言うとソファから立ち上がるあたい。 「もう…寝るっ。」  そう言い残して、ベッドへと潜り込むと猫のように小さく丸まって…。   (2015/9/11 22:03:46)

マリア「ま…。もう違和感はとれたってとこか? どうだ? そろそろ、また経験したくなってんじゃねぇのか?」  あたいの肩がプルプルと小さく震えだす。 「手前ぇ…いっぺん殺ス。絶対殺ス。」  まだ頬を真っ赤に染めた顔で振り向くあたいに、「おお。怖ぇ…。」とソファへと逃げ帰った小男が嬉々として喋り続ける。 「別に、恥ずかしいことじゃねぇってば。誰でも通る道ってぇことよ…。せっかく目覚めたんなら、俺らが優しく導いてやるから心配すんなって…。」 「何?なになになにーっ? 何言ってんのこいつ。」め、目覚めたって…誰がよ? め、目覚めたって…何によ? そう頭のなかでは反発してみるものの、顔は先程にも増して真っ赤っ赤に染まってしまう。 「導いてやるって何をよ。そもそも俺らって…?。」 「あっ。やべぇ…。」とばかりに口をつぐむ小男。それでもにやにやと笑みを浮かべたまま「間違いなく、こいつは脈あり…だな。」と確信を持って…。 「まぁ…。そのうち追い追いな。」  話を収める小男に、まだ追求して詰め寄りたい気分は満々だったが、闇雲に責めてもヤブヘビのような気がして、あたいも口を閉ざす。   (2015/9/11 22:03:26)

マリア 調子に乗った小男はソファから身を乗り出して立ち上がると、固まったまま振り向けないあたいの背後に迫る。広げた掌をあたいのお尻に重ねると、バスローブの上からではあるものの、恥ずかしい蕾の真上あたりを丸く優しくさすりだした。 「痛いの…痛いの…飛んで…行けー…ってな。」  お尻を触れられた感触よりも、痛いところを知られて、しかも擦られてしまう恥ずかしさに、「莫迦ぁ…っ。」っと小さく呻くことしか出来なかった。   (2015/9/11 22:03:12)

マリア「初めて…だったんだろ? アナル。」  顔が真っ赤に染まってしまったあたいは、背中を向けたまま振り向くことが出来ない。あたいを辱める様に更に言葉を重ねる小男。 「で…どうだった? 良かったか? あああっ…ん。マ、マリア、もうめろめろん…。」  小男お得意のあたいの真似。女のように体をくねくねさせながら、震えたあたいの体を姿勢で表現する。さすがに、今回だけは恥ずかし過ぎて、殴ることもままならない…。い、いつか殺してやる。   (2015/9/11 22:03:00)

マリア 奴が食べ終えた皿を片付ける。キッチンで使い終えた食器を洗うあたいの後ろ姿を、ソファにもたれてながら黙って見ていた小男が、再び話し始める。 「ところで…ケツの痛みは治まったのか?」 「な…なんでそれを知ってる!」と、頭のなかでそう答え一瞬ビクつくあたい。 「な…何よそれ。」  明確な否定もできず話をかわそうと試みる。「くっくっく…。」と笑う小男。 「隠せてるとでも思ってたか? バレバレじゃん。みんな知ってるって…。」 「え…。えええ。え~~。うっそ…。」言葉にして反応は見せない。上手くやり過ごしたと思ってたのに…。   (2015/9/11 22:02:52)

マリア 全く、口の減らない奴。まあ口が悪いのは元々だし、こういう言葉が出てくるようならもう大丈夫だろうと思う。 「何言ってんのさ。食いたくなきゃ無理に食わんくたっていいんだぜっ…。」  そう言って、パスタの皿を取り上げようとするあたいの手を、肘でガードし、パスタを守りながら、奴が続ける。 「こ、こんなもん…。うちの奴の手料理はな、世界で一番…」  そこまで言いかけた所で奴の手が止まる。…そう。今、あんたのその奥さんは居ないんだよ。確かに奴の奥さんの料理の腕は近所にも評判だったと聞いてるけど…。しばしの沈黙が続いた後、口をもぐもぐとさせた行儀の悪い態度で彼がポツリと呟いた。 「…世界で二番めに旨ぇ…よ。こいつは。」  思いもよらぬ言葉に、何故かちょっと涙が出そうになった…。   (2015/9/11 22:02:39)

マリア パスタを茹でながら、賽の目切りになった冷凍野菜とグリーンピース、そして数本のソーセージを幾つかに切り分けたものをフライパンで炒める。茹で上がったパスタの湯を切ってフライパンに一緒にぶち込む。あとはオリーブオイルを掛けてかき混ぜるだけ。仕上げに生卵を一つ落とし、もう一度軽くかき混ぜ、塩コショウで簡単な味付けをして出来上がり…だ。 「ほらよ…。」  奴の前に差し出した、なんちゃってカルボナーラ。それでも奴は貪るように食い始めた。口の中にパスタを詰め込み詰め込み、時折満足そうに頷く姿を、向かいに腰掛けてながら頬杖を付いてその食べっぷりの眺めていると、奴が話しだす。 「マリアの料理の腕は……、いつまで経っても上がんねえな。」   (2015/9/11 22:02:30)

マリア「…ったく。心臓に悪いってば。…もう判ったから、ちょいと待ってな。」  そう言いながらドキリとさせられた胸元を押さえながら、ベッドから起き上がると明かりをつける。冷蔵庫の中を物色してみても大したものはない。 「大したもの無いけど、何でもいいだろ?」  そう言いながらも文句は言わせない。「うんうん。」と頷く奴に背中を向けて、あたいはキッチンに立った。   (2015/9/11 22:02:18)

マリア 全裸の上にバスローブを羽織り紐を結ぶ。そんな姿のままでベッドの上でひっくり返り、天井を見上げながら脚を組んでるあたい。同じくバスローブを着てソファの上でだらしなく寝そべってる小男。さすがに眠い…。  ベッドから起き上がると「もう寝るよ。」とひと声掛けて明かりを消す。ベッドに潜り込んで深い眠りに落ちていくその瞬間に、「腹減った…。」と、ソファから眠りを邪魔する声がする。 「うっさい。寝ちまえば忘れるって…。」  そう答えると黙りこむ小男。しばらく物音が聞こえてこない。「ようやく寝たか…。」と思い眠りにつく。突然、耳元で「腹減った…。」との声に飛び起きるあたい。奴は暗がりの中であたしの寝顔を覗きこんでた。   (2015/9/11 22:02:10)

マリア「マリア…。お前ぇ、魅力落ちたな。」 「な…なんだって!」後からぶん殴ってやろうと思った瞬間に奴の言葉が続く。 「…俺の自慢のイチモツが、ピクリともしねえ。」 「ぷぷっ…。」思わず噴き出しちまうあたい。そうだった。いつもは獰猛この上ない奴のイチモツは、いざ本気で落ち込んでしまった時には、にっちもさっちも行かなくなる事を思い出す。「今回は、嘘じゃなかったって訳だ…。」改めてそう思い直したところに、再び奴の声が響く。 「おいこら。レディに失礼だろ? ちったあ頭をもたげろ。」  シャワールームを出て行くあたいに、聞えよがしにイチモツへと語りかける奴に腹を抱えて笑っちまう。奴の声色がほんの少しだけ戻ってきたのを感じながら…。   (2015/9/11 22:01:57)

マリア「大丈夫…かい?」  ちょっと気になったあたいは、ドアを開けて中を覗き込む。シャワーを頭から被りながら背中を向けて立ちすくんでる奴の肩は小さく震えて見えた。音を立てずに静かにドアを閉める。一度大きく息を吸い込んで、ふぅっと息を吐き出しながら、小さな覚悟を決めたあたいは、服も下着も脱いで全裸になるとバスルームのドアを開く…。 「いつまで、何やってんのさ…。」  そう言葉を掛けながら、ソープでたっぷりと泡立たせたスポンジを奴の背中へと宛てがっては滑らせ始める…。貧相な体にしては筋肉は引き締まって活動的にも見える。背後から手の届くところまでを一通り洗い済ませると、脇から潜らせた手を奴の前へと伸ばしスポンジを渡す…。 「元気…お出しよ…。」  そう言って裸の胸の膨らみをそっと奴の背中へと押し当てる…。その刺激に一度小さくビクンと震えた奴の体。しばしの沈黙の後、奴はこうのたまった。   (2015/9/11 22:01:48)

マリア バスタオルでいくら拭いても埒があかない…。バスタオルを持った手を止めて、あたいが言う。 「シャワー…入れよ。」 「ああ…。」と小さく答えては、濡れた服を下着もろとも床にぶちまけるように脱ぎ散らかすとシャワールームへと入っていく小男。 「で…? なんて言ったんだよ?」  濡れて汚れた奴の服や下着を拾い集めると、洗濯機へと放り込みながら聞きただす。しばらく待ってみたが返事は返って来なかった…。 「あんた、莫迦だからね…。後先考えず、酷ぇこと言ったんだろ? いつものことじゃねぇか。誠心誠意、詫びりゃ済むって話さ。」  シャワーの流れだす音が聞こえ出す。 「俺ぁ、馬鹿だからよ…。」  中からそう返事はあるものの、曇りガラスから薄っすらと透けて見える影は全く動いていない。   (2015/9/11 22:01:36)

マリア「俺ぁ、自分勝手だからよ…。」  今朝、言ってはならない言葉を妻に吐いて仕事に出かけた小男。いつもの様に酔った姿で家へ帰ってみると、家財道具一式もぬけの殻だったと言うのだ。   (2015/9/11 22:01:27)

マリア とりあえず、風邪でも引かれて移されちゃ堪ったもんじゃない。 「ほらよっ…。」  そう言って放り投げたバスタオルを受け取った小男は、体を拭こうともせず立ち尽くしてる…。 「おいおい。今回は手が混んでるな…。」…そうは思っても放って置けるものじゃない。小男に近寄るとバスタオルを取り上げて、たじろぐ様に動こうとしない体を、「しようが無ぇな…。」と言いながら拭いてやると、一言二言…と、ぽつりぽつりと小男が語り出す。 「今回だけは…本当にどうしようもねぇ。」  紫色に震えた唇から辛うじて紡ぎだした小男の台詞。疑いを持ちつつも「もしかしたら…」と思わされて信じることにしては騙される。何度もあったパターンだ。呑んだくれたり女遊びが過ぎたりで、いつもは一方的に愛想を尽かされることしかないのだが、今回はどうやら違うようだった。小男の両親は母親が早世。父親は健在だったが、ようやく七十歳を迎えようかという若さで認知症がかなり進行したらしい。その父親を引きとる引き取らないで揉めた様子。   (2015/9/11 22:01:17)

マリア 安アパートメントの前へと辿り着く。ちかちかと時折点滅する街灯を苦々しく思いながら、建物の扉を開き階段へと歩みを進めると、全身をびしょ濡れにした小男が階段の一番下に腰掛け座り込んでいた。 「おいおい、やめとくれよ…。」  靴音に気づいた小男が顔を上げると、同情を誘うような哀れな視線をあたいへと向ける。その視線を払うかのように手を振るあたい。血の気の失せたような青ざめた表情は、一見の価値あり…とも思えるような迫真の演技に見える。 「毎度毎度、騙されんのはゴメンだよ…。」  座り込んだ小男に関わらぬように、その横をすり抜け階段を上がる。また嘘だろうとは思うものの背後が気にならぬ訳ではない。やや遅れてあたいの後に小男の靴音がついてくると、「ちっ。仕方の無ぇ奴…。」と口の中で呟きながら少しだけ安堵の表情を浮かべるあたい…。   (2015/9/11 22:01:07)

マリア 小一時間も外を流してみたが収穫はなし。雨もぽつぽつと降り始めてきたので小走りでバーへと戻る。店の扉を開き中へと飛び込むと普段より閉店時間が早いのか、照明は半分落とされ、客が帰った後の店内でマスターが一人で片付けをしていた。 「どうだった?」  塩梅を伺うマスターに無言のまま首を振ると、椅子をひっくり返しテーブルの上へと重ね、床の掃き掃除と洗い物を手伝う。 「早仕舞い…なんだね?」  そう訊いたあたいに、「すまねえな…。」と一言だけの返事が戻ってくる。小男も帰っちまったようだし…他に当てがあるわけでもない。今夜のところは大人しく帰って寝るとするか…。マスターから傘を借りると、土砂降りに変わった深夜の暗がりの中、家路につく。   (2015/9/11 22:00:56)

マリア「ふむふむ…。何気なく教えてやるとするか。」 「にひひ…」と、再び目を合わせたマスターと小男の顔に、厭らしい笑みが浮かんだ。 「こんな小さな楽しみでもなきゃ、やってられんって…。」  小男が愚痴を零し始める。 「なんだ、また逃げられたのか?」  冗談を装ってマスターが訊き返す。小男が何度も女房に逃げられてる話は地元の人間で知らない奴はいない…。が、それを方便にし、同情を誘っては女に構ってもらうのも彼の手口のひとつ。 「で…。今回は本当か?」  マスターが念を押すように訊く。 「ああ…。今回は本当に、参っちまった…。」  小男が大きく吐いた溜息は、勿論、あたいの耳には届かなかった。   (2015/9/11 22:00:46)

マリア あたいの居なくなった席に残されたグラスにマスターと小男の視線が向く。マドラーもマリアと共に消え去ったことを確認した二人は、目を合わせて「にひひ…」と厭らしい笑みを浮かべてたのを、あたしは知る由もない。 「ああ…。見込みありだな。」  マスターがポツリと呟く。 「当ったりめぇよ。俺は出会った時から気づいてたぜ。」  小男が言葉を継ぐ。 「しかし、いつ気づくかね?」  先は長そうだ…と目を瞑るマスター。 「気付かん時は…ほら、こうやって…。」  軽く握った左手の拳の中に、右手の人差指を出し入れする仕草をしてみせる小男。   (2015/9/11 22:00:34)

マリア「マリア…。そういえばよ…。」  カウンターに突っ伏したまま顔だけこちらに向けて、小男が何か言いたそうだ。少し躊躇った後、何かを言いかけた小男の口を封じるように、徐ろに席を立つあたい。」 「とりあえず、その辺りを一周りしてくるわ…。」  そう告げると同時に、瞬きする間もない早さでグラスから「エメラルドの飾りが付いたマドラー」をくすねるとバッグへと仕舞いこみ、足早にバーを後にする…。   (2015/9/11 21:59:55)

マリア ズズズ…ッと行儀の悪い音を立ててカクテルを飲み干したあたいは、さっきから気になってるエメラルドの飾りのついたマドラーで、溶けずに残った氷を突付きながら暇を持て余してた…。 「…ったく。この店には、客になるような客が来ねぇのかい。」  テーブルの席を埋めてるのは、どいつもこいつも見覚えのある地元の奴ばかり。 「もう一杯どうだい? 気に入ってもらえたようだし…。マリアに似合うカクテルだろ?」  ムスッとしていた顔がいつの間にか営業スマイルへと戻ってるマスター。   (2015/9/11 21:59:47)

マリア ふと、バーの扉が開くと一人の男が入ってくる。黙ったままカウンターへと向かった男は何やら紙袋をカウンターへと乗せる。男の元へと駆け寄ったマスターと男との間になにかやり取りがあったようだ。小さな封筒が見えた。その一瞬、ちらっと男と視線がぶつかった気がする。慌てて視線を外すあたい。怪しい雰囲気を身に纏った男…。「何者だろう?」と、思いながら何気ない仕草で振り向き直した時には、もう男はそこに居なかった。 「誰だい? あの男…。」  何事もなかったかのように、あたいらの前へと戻ってきたマスターに声を掛けてみる。 「旧い知り合いさ…。」  面白くも無さそうにマスターが答える。話したくない事を無理に追求するほど暇じゃあない。こんな顔をした時のマスターには、何言っても情報は出てこない。   (2015/9/11 21:59:35)

マリア「身成りの良さそうな奴だったけどな…。銀行マンとか言ってたっけ…。」  数日前に安ホテルに連れ込んだ男の顔を思い出そうとしてみる…。だめだ。思い出せない。目の前にでも現われりゃ、こいつだっていうのは判るんだけど…。 「あの…野郎。こんなもので、あたいを陥とせるとでも…。」  めらめらと燃え上がる怒り。…いや、被害者は銀行マンのほうだから。と、あたいの小さな良心が心の中で口を挟む。 「何にしても、いいもん貰ったじゃねえか。今夜早速試してみるってか?」  二発目の拳骨は顔面へと入った。カウンターに伏せる小男。 「誰が…こんな誰が使ったかわからんものを…。」  小さく歯ぎしりするあたいの心情を読みきったかのように、マスターが一言かける。  「綺麗に洗って、消毒すれば平気平気。」  にっこりとあたいに微笑みかけるマスターに、口開けて呆然とするあたい…。 「マ、マスターまで…。」   (2015/9/11 21:59:17)

マリア「これって…もしかして…。」  笑おうとする口元が引きつる。 「…ロータだな。」  小男がズバリと断定する。 「や…やっぱり?」  慌てて床から拾い上げるとスイッチを切り、財布の中へと戻す。 「ああん? 新しいお友達の紹介か? 今、あたいこれ気に入ってんの。」  小男が女のように体をくねくねさせながら、あたいの姿を真似るように揶揄する。勿論、直後にあたいの拳骨が小男の頭に振り下ろされたのは言うまでもない。   (2015/9/11 21:59:06)

マリア「銃弾じゃねえのか?」  その大きさに小男が適当な事を言う。 「銃弾って先端、丸かったっけ?」  あんた莫迦ぁ? と、細目で侮蔑の表情を作ると、端を摘んだまま、筒状形の丸まった先でコンコンと小男の鼻先を突付く…。  その瞬間、カチっとスイッチの入った音が聞こえると、突然激しく振動を始める物体。驚いて思わず指から落としてしまったその怪しい物体は、綺麗とは呼べない床の上で、ブーンと低い音を唸りながら振動し悶えてる。  小男と合わせた視線…。小男と動きを同期させたように、その視線を同時に床へと向けて…。あたいが、ぼそっと呟く。   (2015/9/11 21:58:57)

マリア「あ、そうだ。マスター。臨時収入があったんでツケ払っとくよ。いくらある?」  そう言うとスツールの向きを戻しつつバッグから焦茶の財布を取り出す。財布と言ってもポーチといってもいいような大きな財布だ。そこから数枚の紙幣を抜き取ってカウンターへと置く。 「ん…? 何だこりゃ?」  財布の中にクロム光沢に輝く金属製のおかしな物体が目に留まる。長さは六~七センチはあろうか…。直径一センチ程の筒状形は先端が丸まっていて、反対側は電池の突起のような形状。 「これ…なんだと思う?」  二本の指で筒状形のそれを摘み上げて目の前に掲げてみせる。   (2015/9/11 21:58:44)

マリア 中肉中背で五十歳前後のマスター、それに痩せこけた三十代後半の小男が、何やら見つめ合って「にひひ…」と気味悪い笑顔を浮かべては、時々こちらを覗く。 「あっ…。こいつは美味ぇ。」  ひとくち味わったあたいが声を上げる。 「そうだろそうだろ?」  と、頷きながら相変わらず薄笑いを浮かべてるマスターに、スツールを回して背を向けると、一気に半分ほど飲み干す。「この色…素敵だな。」金属製のマドラーの柄の先に飾られているエメラルド。勿論、イミテーションだろうが、本物の宝石の様に球形にカッティングされたそれは本当に綺麗だった。柄の反対側の先には直径一センチ半程の金属の玉が付いてる。「なんか、これ…大きすぎないか?」などと思いつつも、そんなどうでも良いことはすぐに忘れて…。   (2015/9/11 21:58:35)

マリア 少し時間を置いた後に、あたいの前に差し出されたオレンジとレッドの彩り溢れるカクテルは、意外にもすごっく綺麗だった。グラスの先に添えられたフルーツが無色透明の綺麗な氷に映ってキラキラしてる。 「わ…。すご…。綺麗…。」  と、一瞬、無邪気に目を輝かせてしまうと、気になる周りの視線。慌てて如何にも何でもないといった風情を作るあたい…。 「きゃ~っ。綺麗~っ。可愛い~っ。素敵~っ♪…とか、あたいに言わせたい訳?」  素直じゃないな…とは思いつつも、そんな受け答えしか出来ない変な所で照れ屋なあたい。でも、普通の女の子扱いをしてもらってるようで…内心ちょっと嬉しかったりする。  氷が溶けて傾くとマドラーが揺れてチリンと鳴る。その可愛い音にさえ思わず小さく笑みが零れてしまう…。そんなあたいの笑顔を目ざとく見つけたマスターと隣の席の小男が「くくくっ」と背中を震わせて笑う。 「…な、何だよ。こっち見んな。」  照れ隠しもバレバレだ…。   (2015/9/11 21:58:21)

マリア あたいの名はマリア。この界隈でスリを生業として暮らしてる二十代後半の女狐ってとこ。その腕前の良さはまことしやかに噂が流れてるものの、それがあたいだと知る者は少ない。地元の人間に顔を知られるのもマズいもんで、狙いはもっぱらちょっと小金持ち風の旅行者。今のご時世…さすがにスリだけじゃやっていけないので、娼婦まがいなこともやってる。あたいが言うには娼婦詐欺ってやつで、自分自身じゃ娼婦とは思っていないが、人にとっちゃ同じようなものだろう。通りがかりの旅行者に声を掛け、安ホテルに誘い込み、バスルームへと客が入ってる隙に頂く物は頂いてさっさと逃げる。   (2015/9/11 21:58:14)

マリア「…もうっ。判ーった、判ーったから…ソレでいいよ。」  どう言う風の吹き回しか、今夜はマスターがしきりにカクテルを勧めてくる。「いつものでいいっ」と断るあたいに、「でも…。」とか「これは是非マリアに飲ませてやりたいんだよ。」とか、五度も勧められ直すと流石にどうでも良くなってくる…。  繁華街の場末の一角。古めかしく寂れたバーのカウンター席の端に腰を降ろしたあたいは、ひとつ大きく溜息をついて、半ば投げやり気味にそう答える。   (2015/9/11 21:58:06)


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