俺は、弱い者でも尊敬の対象になることがある。
その人間に誇りが見えた時だ。それは矜恃とも言えるかもしれない。プライドとなると意味は少し違ってくるが、まあそんなもんだ。

俺が悪童として地元で名を馳せていたある日、体の小さな小男が俺の前に現れた。男は、恐らく160cm程度しかなく俺より頭ひとつ分は小さい。眼鏡をかけたいかにも文化系という顔つきであり、色白で華奢な体格をした男だった。
そんな男が、当時2メートル近く耳も潰れ顔中傷だらけのいかにもな強面の俺と対峙したのだ。
男は言った。「金剛寺力也だな。お前を倒す」
俺は半ば呆れつつも男の面構えと声色からある種の覚悟と矜持を感じ取った。
大抵、俺を前にすると並大抵の男じゃ声がうわずったり、怯えた様子を見せる。
この小男は俺を前にしても、男であることをやめなかった。
闘いは一瞬で終わったことは語るに足らない。

後に、この男は有名漫画家となる。大手出版社の週刊誌で看板漫画を連載しており、アニメ化もした作品の作者だ。
俺に喧嘩を打ったのは、戦闘シーンに迫力と説得力を持たせるため、また最強のキャラを描くため、地元では最強の悪童として有名だった俺という生きた教材と一戦交えたかったということらしい。

俺は、例え弱くとも、自分の夢のために覚悟と誇りを持って俺に挑んできたこの男を尊敬している。