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「モノローグ/マリア」の過去ログ

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2015年09月11日 21時40分 ~ 2015年09月11日 22時06分 の過去ログ
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おしらせ新規ルームを作成完了しました。(180.56.***.58)  (2015/9/11 21:40:06)

おしらせマリアさんが入室しました♪  (2015/9/11 21:42:40)

マリア【第一話】   (2015/9/11 21:42:51)

マリア「…ったく。なんて夜だ。」  繁華街の場末の一角。古めかしく寂れたバーのカウンター席の端に腰を降ろしたあたいは、小さく吐き捨てるようにそう呟くと一杯目のグラスを空ける。  無論、こんなあたいの独り言など誰も気に留めちゃいない…。ひと仕事終えて、いつもは美味い筈のバーボンと一服にもやるせない気だるい感覚が残ってる…そんな夜。   (2015/9/11 21:43:06)

マリア あたいの名はマリア。この界隈でスリを生業として暮らしてる二十代後半の女狐ってとこ。その腕前の良さはまことしやかに噂が流れてるものの、それがあたいだと知る者は少ない。地元の人間に顔を知られるのもマズいもんで、狙いはもっぱらちょっと小金持ち風の旅行者。今のご時世…さすがにスリだけじゃやっていけないので、娼婦まがいなこともやってる。あたいが言うには娼婦詐欺ってやつで、自分自身じゃ娼婦とは思っていないが、人にとっちゃ同じようなものだろう。通りがかりの旅行者に声を掛け、安ホテルに誘い込み、バスルームへと客が入ってる隙に頂く物は頂いてさっさと逃げる。   (2015/9/11 21:43:20)

マリア こんな商売やってると、勿論、地元の奴と絡むこともある。掻き集めたなけなしの金を握りしめて、あたい会いたさに来る奴もいれば、あぶく銭を手にして御機嫌な笑顔であたいのアパートメントへと転がり込んでくる奴らもいる。 「あたいは、娼婦じゃねえ!」  そんな言葉を吐かれて、部屋から蹴りだされた男は数知れない。だけど、心底あたいに会いたがってやってくる奴らには、時々相手してやるのさ。気分の乗った時には、色っぽい喘ぎ声と艶めかしい悶えた姿さえ演じてみせてやることだってある。勿論、金など受け取らないけどね…。こんな底辺の商売をやってるあたいの最低限の矜持。なので、この界隈には、あたいを恨む奴と味方になってくれる奴が半々ってところ。   (2015/9/11 21:43:32)

マリア 煤けた壁に掛かった丸い壁時計が午前三時の鐘を響かせる。それは昨日の夕暮れ時のこと。まさしく逢魔が時と呼ばれる所以の刻、あたいは通りを流しながら客を物色してた。そんな時、今時珍しくかなり裕福そうな身持ちをした年配の男性を発見。額に深く刻まれた皺にも関わらず威風堂々とした雰囲気を持った上に優しそうな瞳を湛えてた。言ってみればロマンスグレーの質実剛健かつ柔和な老紳士。  見かけはどんなに立派でも、いや立派だからこそ、スリにやられたと気付いた時の反応が見ものだ。あたいは何気なくウィンドウショッピングを楽しむ風で老紳士に近づく。偶然を装った肩がぶつかる。瞬時に懐へと忍び込んだあたいの右手は、分厚い財布をしっかり掴むと…。 「あ…あら。ごめんなさい。余所見してて…。」  小さく小首を傾げて申し訳無さそうな表情を見せると、老紳士の傍らををスルリと通り抜ける…。   (2015/9/11 21:43:46)

マリア 他愛もないカモ。内心しめしめと思い、薄い笑顔を浮かべそうになった……その時、財布を掴んだ手は老紳士の逞しい腕に取り押さえられる。その身のこなしの素早さは信じられないほどで、あたいは愕然とする。「しまった。しくじった…。」  なんて取り繕うかを必死に考えるあたい。しかしその老紳士は、「スリだ!」と大声で叫ぶわけでもなく、落ち着いた様子で掴んだあたいの手を引き寄せつつ、低い声であたいに問いただした。 「お嬢さん…。」  思いもよらぬ素敵なバリトン。こんな状況でさえなかったら、思わず聞き惚れてしまうようなあたい好みの低い声で老紳士がさらに言葉を続ける。 「この界隈で…めっぽう美人で、それは艶やかな喘ぎ声でさえずり、その悶える姿は一度目にしたら忘れられない…という伝説の娼婦を探しているのだが…。」 「何言ってるの? この爺さん…。」そう思いながらも掴まれた腕を振りほどこうと藻掻いてみるが、逃げ出すことは叶わなかった。   (2015/9/11 21:43:59)

マリア「君は知らんかね? そんな娼婦を…。」  老紳士の手に力が籠る。年寄りとはいえ体躯の良いこの老紳士の手から逃げるのは、かなり厄介そうだ。 「名前は、聞いたところ…確かマリーだか…マリエだか…。」 「え? もしかして、あたいを探してる?」…名前は間違ってるけど…。でも、この感じじゃ捕まえて警察に突きだそうって人の態度じゃないことだけは判る…。自分の名前を呼ばれたかのように、一瞬「へ?」と不思議そうな顔を浮かべたあたいに、老紳士は目ざとく気づいたよう…。 「まさか…。君…君がそうなのか?」  第六感とでもいうのか、人を見る目の養った人の眼力というものには恐れ入る。 「…マリア、だよ。」  反抗するような目つきで間違えられた名前を訂正させると、あたいは小さくコクンと頷いた…。   (2015/9/11 21:44:16)

マリア「そうか…。君か。」  感慨深そうに何度も頷く老紳士が、如何にあたいに会いたかったかをこんこんと語り出す。遠い街から来たこと、何年もずっと探していたこと、これまであたいを求めて何度も此処へやってきたこと…云々。途中から「はいはい。」と聞き流していたあたい。途中で話の腰を折るように、言葉を挟む。 「で…何? どうしたいの? あたいと寝たいって訳?」  ちょっと意地悪な直接過ぎる質問を老紳士へとぶつけてみる。ちょっと照れくさそうに頭を掻きながら…あたいの物言いにちょっとまゆを顰める彼。 「そんな言い方をするもんじゃない…。とは言っても…その通り。君が欲しい。」  さすがに、こんな直球で「君が欲しい」なんて返ってくるとは想像も出来なかった。さらに思うには、こんな低音の素敵な声で言われると、こんなあたいでさえ、ついドギマギしてしまいそう。   (2015/9/11 21:44:26)

マリア「判った…。付いて来なよ。」  わざとぶっきらぼうにそう返事をすると、盗みかけた財布を老紳士へと返す。一緒に歩き出す老紳士とあたい。 「一つ、言っておくけど…。あたいは…娼婦じゃないからねっ。」  キっと老紳士を睨むと、腕を振り上げ後頭部へ軽くゲンコツをお見舞い。 「そっか…そっか…。」  叩かれた頭を擦りながらも上機嫌な老紳士に、「これはまた…変な爺さんに絡まれたものだ…」なんて、小さな溜息を一つ吐いて…。   (2015/9/11 21:44:38)

マリア 地元の人間を相手にするときは、勝手にやって来てしまうこともあって、自室であるアパートメントで情事に至ることがあるものの、旅行者や見知らぬ相手の場合は、用心もあって近くの安ホテルへと誘い込むことが多い。勿論、この老紳士もそんな安ホテルへと連れて行く積りだった。  何度も訪れたことのある安ホテルの前まで案内すると、ホテルの看板を見上げながら不意に老紳士が呟く。 「君の部屋ではないのかね…?」 「あたいの部屋まで来ようって気?」随分といい気なものだ…と思いながらも、スリの現行犯を捉えられた負い目は結構深く…少し躊躇った後、渋々歩き出す…。 「それなら…こっち。」   (2015/9/11 21:44:48)

マリア 辺りはすっかり陽も暮れて、街灯にも明かりが灯りだす。夕飯に食事を供する店からの美味しそうな匂いが鼻をつく。  くぅ…きゅるるる…。  朝からまだ何も食べてないあたいのお腹が鳴る。 「わっはっは…。」  と、大きな笑い声を上げた老紳士。 「何か腹ごしらえしてから行こうか? 腹が減ってて満足なお相手をしてもらえんだったら、一生の後悔になっちまうだろうしな。」 「はぁ…?」  キョトンとした顔で苦笑するあたい。全くもってどうしてこんな展開に? などと思いながらも、折角ご馳走してくれるというのを断る理由もなく、いつのまにか、もう少しこの老紳士のことを知りたいという思いもあって、一緒にレストランの扉をくぐった。   (2015/9/11 21:45:39)

マリア お腹が満たされ、少しお酒も入って警戒感も薄れてくる。老紳士と腕を組みながらアパートメントまで歩くのは、思いのほか楽しかった。安アパートメントの扉を開ける。訝しげな表情で二人を睨んでは出かけていく管理人の老婦人とすれ違う。「今度は、爺さんまで連れ込むのかい。」とでも言いたそうな顔。  踏むとぎしぎしっとなる階段を登る合間に、隣室でお客を呼び込んだ本物の娼婦の嬌声が響く。黙りこんでしまう老紳士とあたい。二階へ上がり一番隅っこの部屋へと案内して、扉を開け彼を迎え入れる。 「こんな、ぼろっちい場所でいいのかい?」 「なんなら、もっと豪華なホテルで…」と、言い出しかけたものの、「ほおほお…。」と言いつつ部屋の様子をぐるりと見渡す老紳士。 「いや…。生活感の感じられる、君の匂いのする此処はまさに最高の場所とでも言っておこうか。」 「何、気取ったこと言ってるんだか…。」と聞き流しつつも、老紳士には顔を背けたまま小さな笑みが洩れる。   (2015/9/11 21:45:50)

マリア 老紳士に寄り添いながら上着を脱ぐのを手伝い、安物ながらも洗いたてのバスローブを部屋着代わりにと手渡す。 「それにしても…あたいに会いたいだなんて、奇特な爺さんだね。」  背中越しに振り向きながら、老紳士がバスローブに着替えるのも見やりつつ、そんな言葉を掛けてみる。老紳士はそれには答えずに小さく微笑んでいるだけ。  お湯を沸かして挽きたての珈琲を淹れるとマグカップに満たして老紳士の元へと差し出す。一服してもらってる間に、ショーツの上にキャミソールだけの姿へと着替えるあたい。その上にバスローブを羽織ると老紳士の隣へと腰を下ろす。  珈琲カップの隣には、先程盗みかけた分厚い財布が無造作に置かれてて…。   (2015/9/11 21:46:01)

マリア「バスルームはあっちね。」  そう言うと目配せしてバスルームを伝える。 「そうだったな。シャワーくらい浴びんとな…。」  珈琲の残りを飲み干すと、そう言って立ち上がった老紳士はバスルームへと向かい、その扉を締める…。  あたいの目の前に無防備に置かれた財布。思わずコクンと息を飲む。その分厚さと言ったら、一センチくらいはありそう。手を伸ばそうとしては、首を振ってその手を引っ込める。こんな誘惑するものの側にはいられない…そんな思い。バスローブと下着を脱ぎ捨てては、誘惑を断ち切るようにその場から離れ、老紳士が入ってるバスルームの後へと続いて、その扉を開く…。   (2015/9/11 21:46:11)

マリア 風呂あがりにバスローブ一枚の老紳士と、キャミソールとショーツのみの姿のあたいが、ベッドの端に並んで座る。ぎこちなく伸びてくる手。  優しくベッドへと倒されると、老紳士の体がゆっくりとのしかかる。滑るような質感のキャミの上を這いまわる大きな掌に、胸の蕾はあっという間に膨らみを現して小さな影を作る。 「んっ…あっ…ぁん。」  キャミ越しの乳首を小さく弾かれて、思わず洩れてしまう声。やがてキャミの裾を捲り上げて中へと忍びこんで来る手。老紳士の太い指があたいのはちきれそうな乳首を摘むと、優しく左右に揺すり、時折摘み上げるように引っ張りながら、あたいの喘ぐ表情を覗きこんでる。乳房がすっかり露わになるほどキャミ捲りあげられたあたいの乳首のもう片方へと老紳士の唇が降りてくる…。部屋の明かりの下で照らしだされる白い胸。背中はアーチ状に仰け反ってしまうと、巧妙に強弱をつけて刺激を与える老紳士の責めに、体はビクンと何度も大きく跳ねるように震えてしまって…。   (2015/9/11 21:46:22)

マリア「あっ…あああ…っ…はぁ…っん…。」  巧みな舌使いに次第に蕩けていくあたいの体。乳首の芯に疼きが溜まりだすと、思い切り吸い上げて欲しくなる。あたいの思いを知り尽くしたかの如く老紳士の唇が乳首を覆い尽くすと、  ちゅっ…  と、音を上げて吸い上げる。キュンっと体中に響く快感は股間にも達して、恥唇の奥がにわかに火照り始めてく…。 「あっ…あ…きゃん…んっ…あ…はぁ…。」  老紳士の右手がそっと腋を擽ると、そのまま脇腹を通ってお腹へと降りてくる…。半分透けたショーツの中へと彼の手がゆっくりと潜ってくると、その自然に伸ばした中指の先が恥ずかしい割れ目に掛かる。割れ目の一番下まで降りた指は、その閉じられた一本の線の上を優しくなぞりながら上へと向かう。そんな愛撫を数回繰り返されただけで、じわりと滲み出してしまう蜜。次に老紳士が一番下から再び指を上へと滑らせた時には、力を入れずとも、ヌプっとその指を飲み込んでしまうほどに解されてしまってる…。 「んっ…あっああ…。はぁっん…。」   (2015/9/11 21:46:34)

マリア 柔らかな快感を受けた腰が艶めかしく揺れだす。乳首をねっとりと吸い上げる唇、あたいの背中から腋を掻い潜ってもう一方の乳首を転がす掌。その間に右手が濡れた恥唇を剥き上げる…。波打つように畝っては悶えるあたいの体は、まるで魔力にでも掛かったかのように、いつのまにか夢中にさせられ、その虜へと陥ちていく…。静かな動きなのに…なんて巧妙というか…あたいの感じてしまうポイントを知り尽くされているかのよう。強く…時には優しい愛撫は、焦らしつつも、時折ここぞというタイミングで効果的な快感を与えてくれるものだから、たまらない。  逃げ惑うように上下へと激しく揺れるお尻。でも老紳士の指は秘唇から離れてくれることは無くって…。 「っ…あ…ああっん…。あっ…はぁぁ…。」  どのくらい時間が経ったのだろう…。あたいを体の芯から蕩けさせ狂わされた時間は、永遠に続くよう祈ってしまうほどの快感に満ちあふれてて、意識を朦朧とさせる。   (2015/9/11 21:46:46)

マリア「あ…あっ…はぁん…。き、気持ち…いいの。…んっ…あ…はぁ…。」 「このままずっと続けて。」…そんな言葉を吐いたような、言葉には出来なかったような…夢見心地の感覚…。そのあとはもう無我夢中…。  バスローブを脱ぎ捨てた老紳士の肌と直に触れ合うあたいの肌。その熱くも優しい感触は、忘れられなくなってしまう気がする…。恥ずかしくも大胆に脚を広げたあたいの股間に彼が食らいつく。覆いかぶさった大きな体に、何度も何度も逝かされて…くったりとなったあたいを見下ろしながら、小さく開けた瞼の間から満足そうに微笑む老紳士の顔が見える。  何度逝かされちゃったのだろう…。裏返され、表に戻され、お尻を持ち上げられ、脚を広げられて…ありとあらゆるあたいの恥態、その一部始終を老紳士にしっかり見届けられてしまったみたい…。   (2015/9/11 21:47:02)

マリア「良かったよ…マリア。」  シンプルな言葉だけど、情感の篭った温かみのある言葉がかかる。  繰り返し逝かされた余韻に打ち震えたまま動けないあたい。全身に行き渡った痺れるような痙攣は収まりそうもない。そっと…軽く指先で触れられただけでも、ビクンと震えて小さなピークを迎えそうなほど。 「では、最後と行こうか…。」  震えながら甘く蕩けきった表情を湛えたあたいに、老紳士はそう呟く。  再び四つん這いの姿勢へと変えられたあたいは、腕に力を入れることも出来ず、横へと背けた顔で突っ伏したまま、お尻だけを高く上げさせられると、両脚は思いっきり開かれて…。   (2015/9/11 21:47:14)

マリア お尻を包むように充てがわれた大きな掌が、お尻の谷間をゆっくりと左右に広げていく…。 「あっ…あああ…っん。だめ…だめっ…そ、そこは…。」  谷間の奥底に隠れていた蕾が晒されてしまう。ひくひくっと疼くように喘ぐ蕾に、老紳士は「ふっ」と一つ熱い息を吹き掛けると、肉厚の長い舌を伸ばしては、お尻の谷間を舐め上げる…。 「あん…ぃ…ぃや…。あっ…はぁん…。ゃ…ゃん…そ、そこは…だめっ…。」  谷間を満遍なく何度も舐め上げた舌が、蕾へと赴く。尖らせた舌先が、中心部から外側へとほじるように蠢くと、あたいは、もう体の全ての力が抜け落ちていってしまいそう。 「あっ…あ…ん…。んんっ…あ…はぁん。」  入り口を舐められただけで、目眩がするほどの快感に満たされてしまうあたいに、その舌先が蕾の中へと入り込んでくる快感を堪えられる筈がない。  ひくつきっぱなしの恥ずかしい蕾を無理やりこじ開けるように、あたいの中へと潜り込んでくる舌。 「……っ。…はぁ…ああ…あああ…。」   (2015/9/11 21:47:25)

マリア 震えっぱなしの体。特に内腿などは半端の無い震え方になってる。  いったん唇を離した老紳士が指先を蕾へと添える。捩じ込むように挿れられてしまう指は、一本からやがて二本へと変わって、あたいのアナルをグリンと掻き回す…。 「きゃっ…あっ…あああっっ…んっ。」  前後左右に畝り続ける体は、蕾へと指の洗礼を受けると、狂ったように背中を思いっきりしならせつつ仰け反りかえってしまう…。 「あっ…あああ…っん…だめ…だめっ…だめぇぇ…。」  あたいの意を無視して解されていく蕾。老紳士のそそり立った肉杭の先端がその蕾へとそっと充てがわれると、あたいはもう何も抗うことは出来ずに、観念したように全てを彼に預けて…。  あたいの中へと挿し込まれた熱い杭は、体中を焦がし尽くすようなありえない快感をあたいにもたらす。 「んんんっ…っっ…あっ…あ…はぁん…。あっ…あはぁあ…。い…いい…。」  思わず洩れてしまった「いい…」なんて恥ずかしい言葉。でも、それを口にしてしまったことさえ気づかないあたい。 「も…もうだめっ…。あっ…あああ…。…っんく…あっはん…。い…逝く…逝く…ぅ…う。い…逝っちゃう…。」   (2015/9/11 21:47:38)

マリア あたいの甘い歓喜にも似た艶やかな喘ぎ声の余韻を耳にしながら、老紳士はゆっくりと熱い杭を引く抜いていく…。  力なく倒れこむあたいは、震えっぱなしで、時々思い出したかの様に体がビクンと跳ねるように畝る。半開きのピンクの唇。落ちてしまいそうな瞼は蕩けた瞳を隠し、肩を大きく震わせながら弾んだ息に甘い吐息が洩れっぱなしな状態。  あたいの髪を優しく手櫛でといた老紳士は、額に小さくキスをすると立ち上がり、身支度を整え始める。その間も、震えたままの体で身動き一つ叶わないあたい…。   (2015/9/11 21:47:48)

マリア「これは、君の自由に使ってくれたまえ…。」  テーブルへと置かれた財布をそのまま残したまま立ち去ろうとする老紳士は、今一度ベッドの上で打ち震えたままのあたいの側へと戻ってくる。 「本当に…良かったよ。」  あたいの耳元でそう優しく告げる。返事も何も返すことの出来ないあたい…。  ふと、先ほど脱がされたショーツが老紳士の視線に入る。 「こいつは、頂いておこう。」  手に取ったショーツを鼻先へ近づけ、小さく二・三度嗅いで見せると内ポケットへと仕舞いこむ。  財布を受け取るなんて出来ないことを伝えたくっても、ひっきりなしに痙攣する体に言葉もまともに出せない状態…「娼婦じゃないってば…。」。  あたいの裸体をしっかり目に焼き付けるように何度も何度も振り返っては、やがて、老紳士は扉の向こう側へと消え去った…。  震えたままのあたいの耳に、階段を降りる老紳士の靴音が静かに響く…。   (2015/9/11 21:47:59)

マリア それから、数時間後。ようやく永遠とも思えるような快感に浸されることの呪縛から抜けだしたあたい。まだ火照りの残る体を熱いシャワーで洗い流すと、お気に入りの服を着こむ。ラフなノースリーブのシャツとショートパンツ姿で、ソファに座り込むと、テーブルに置かれた財布を見つめながら、頬杖を付いて…。 「…ったく。…娼婦じゃないんだから。」  小さく一つ溜息。老紳士の言葉には娼婦への報酬といったニュアンスは感じられなかったことが、僅かな救いではあるけれど、こんな大金受け取るわけには行かない…。 「あの爺さん…探さなきゃ…。」  外へ出ようと、ふとソファから腰を上げる。扉へと一歩二歩と踏み出す度に、老紳士に犯されてしまった蕾が疼くような違和感にさいなまれては立ち止まる。 「…っもう…。なんてこと、してくれたのよ。」  その光景を思い出すと顔を真赤に染めるあたい…。 「は…初めて…だったのに…。」  小さな声でそんな独り言を吐くと、分厚い財布をバッグへと仕舞いこみ、疼く体を引きずりながら、繁華街の場末に佇む古めかしく寂れたバーへと向かう。   (2015/9/11 21:48:15)

マリア「…ったく。なんて夜だ。」  繁華街の場末の一角。古めかしく寂れたバーのカウンター席の端に腰を降ろしたあたいは、今、言ったばかりの言葉をもう一度繰り返し呟くと、マスターに二杯目のバーボンを頼む。  無愛想な表情でボトルからバーボンを注ぐマスター。  無論、こんなあたいの独り言など誰も気に留めちゃいない…。ひと仕事終えて、いつもは美味い筈のバーボンと一服にもやるせない気だるい感覚が残ってる…そんな夜。   (2015/9/11 21:48:32)

マリア あたいの名はマリア。この界隈でスリを生業として暮らしてる二十代後半の女狐ってとこ。   (2015/9/11 21:48:42)

マリア    (2015/9/11 21:48:44)

マリア    (2015/9/11 21:48:47)

マリア    (2015/9/11 21:48:49)

マリア    (2015/9/11 21:48:51)

マリア    (2015/9/11 21:48:52)

マリア【第二話】   (2015/9/11 21:49:05)

マリア「…ったく、もう。」  今夜は稼がないと、さすがに手持ちの金が心許ない…。いつものバーへと向かうべく、よいしょっと声を出しベッドから腰を上げると、ズキンとお尻に響くなんとも言えない疼き。何か変なモノがまだ挟まってるみたいな感覚が残ってる。一瞬、よろめいてベッドにお尻を落とすと、ビクンと体を震わせる感触に「あん…。」と、思わず小さく顎が上がっちまう。切なそうに目を細め、情けない自分の姿に一つ溜息をついて…。 「あの爺さん…。今度会ったらタダじゃ…」  ベッドに手を付いてなんとか起き上がると、「疼きが走りませんように…」と、祈りながらそっと歩みを進める。お尻を左右に振りつつ庇うようにフラついて歩く後ろ姿は、まるで娼婦の挑発ポーズそのものじゃないか。苦笑しつつも、今はこんな歩き方しか出来そうもない。   (2015/9/11 21:49:13)

マリア 建付けの悪い扉を締め、階段を一歩一歩降りていると馬鹿でかい大男が一階の扉を開け帰って来たのが見える。向かいの部屋に住んでる奴だ。しょっちゅう出くわすが挨拶はおろか話もした事がない。何しろ薄気味悪い奴なのだ。鋭い眼光を持ち暗いオーラを纏ってどこか精神を病んでいる様にさえ見える。二メートルを優に越えるデカさに筋肉隆々の凄まじい体躯は、相当鍛え上げられたものといえる。傭兵上がりとの噂も耳にしてる。「体が健康なのは、いいこって…。」などと逞しい体を揶揄しつつ大男とすれ違う。勿論、声になんか出せない。口の中でもごもごと呟くだけだ。なんたってこんな大男。睨まれたら、それだけでちびっちまう。   (2015/9/11 21:49:20)

マリア「だからっ…。違うっつーの!」  繁華街の場末の一角。古めかしく寂れたバーのカウンター席の端に腰を降ろしたあたいは、マスターを怒鳴りつけていた。  叩きつけるように置いたグラスから、バーボンが飛び跳ねる。このバーのありふれた光景。こんな事くらいじゃ、誰も振り向きさえしない…。近くに座った顔見知りがニヤニヤと薄笑いを浮かべて肩を小さく揺らすだけだ…。  あたいの名はマリア。この界隈でスリを生業として暮らしてる二十代後半の女狐ってとこ。その腕前の良さはまことしやかに噂が流れてるものの、それがあたいだと知る者は少ない。地元の人間に顔を知られるのもマズいもんで、狙いはもっぱらちょっと小金持ち風の旅行者。今のご時世…さすがにスリだけじゃやっていけないので、娼婦まがいなこともやってる。あたいが言うには娼婦詐欺ってやつで、自分自身じゃ娼婦とは思っていないが、人にとっちゃ同じようなものだろう。通りがかりの旅行者に声を掛け、安ホテルに誘い込み、バスルームへと客が入ってる隙に頂く物は頂いてさっさと逃げる。   (2015/9/11 21:49:29)

マリア 全く莫迦らしい噂だ。あたいがカウンター席に着くと普段は無口なマスターが、ひとこと目に浴びせてきたのは、「モデルになったんだって…?」と、まあ、呆れた噂話。  何処かであたいを見かけた奴らが、艶っぽく歩く姿を見て揶揄したものが、あっという間に広がったらしい。歩き方が変わってしまった事は事実だが、理由が理由だけに反論さえ出来ないのがもどかしく、グラスを握った手が苛立ちでプルプルと震えてくる。 「どうしたんマリア? 悩みがあるなら聞いてやろうか?」  隣の席からニヤついた顔で興味本位に口を挟む小男を、「うっさい!」と一喝。   (2015/9/11 21:49:42)

マリア この界隈でヤバイ商売をやってる組織の下っ端のその男は、「おお、怖えぇ…。」と黙りこむ。本来の気性は人の良いお調子者で悪い奴じゃないのだが、薄っぺらい嘘をペラペラとしゃべりまくる奴なのだ。「女房に逃げられた…。」と憔悴しきった表情で、深夜にあたいの部屋を訪ねてきては、一晩中あたいの癒やしを受けたことも一度や二度じゃない。その都度、後からそれが嘘だったと簡単にバレるのだが、憎めない奴でもある。噂を広めたのも多分こいつだろう…。  キッと睨まれた小男は、「俺じゃねえよ…。」とでも言うかのようにブルブルと顔を振る。「…当たりだ。こいつめ。」握った拳であたいに後頭部を殴られた小男は、テーブルに突っ伏して情けない顔をしたまま、「俺じゃねえってばよ…。」などとまだほざいている。   (2015/9/11 21:49:50)

マリア「じゃあ、どうしたん? そんなに客が捕まらねえのかい?」  珍しくマスターが追求してくる。こっちは小男と違ってもう少し気遣いのある表情を見せる。 「馬鹿にしてくれるね? お尻を振らなきゃ客が来てくれないほど落ちぶれちゃいないんだよっ。」  胸は大きいとは言えないものの、きゅっと引き締まった腰に、程よい大きさのお尻。スラリと伸びた脚は、ちょっとした自慢なのだ。ちょっと甘い喘ぎ声を囁けば男なんてイチコロ…などとうそぶいても、許される程度にはいい体をしてる筈と自負してる。 「だからっ…。違うっつーの…。」   (2015/9/11 21:50:02)

マリア 先ほどよりもトーンを落とした声で、マスターに答えつつもげんなりとした表情で、グラスに残ったバーボンを空けたあたいは、カウンターテーブルに組んだ両腕の上に頭を乗せると大きな溜息を一つ。そこに、黙り込んでいた小男が追い打ちをかける。 「ああっ…。そっかアレか。あの日か…。よっぽど酷かったんだな。可哀想に…。」  とんでもない誤解をしては、勝手に頷いてあたいの髪を撫でる小男。「もう…勝手に言っとくれ…。」とばかりに、反論も弁解も出来ずに不貞腐れては、「はぁっ…ぁ…。」ともう一度大きな溜息をつく。 「だからっ…。違うんだってば…。」  ぼそっと小さく呟いた声は誰にも届かなかった…。   (2015/9/11 21:50:11)

マリア「そういえばよ…?」  やや時間を空けた後に小男が沈黙を破る。 「ビッグベンって知ってんだろ?」  キョトンとした表情のマスターとあたいの視線が小男に向けられる。 「ほら、マリアの向かいに住んでる大男の木偶野郎よ。」  嬉々として話し始める小男。先日、ある酒場で…と店の名を隠したまま語り出す。この界隈の綺麗どころ…勿論、娼婦たちのことだろう…も揃った酒の席で、男どものナニ自慢が始まったそうだ。そういう話にこの小男は目がない。小柄なくせにあそこだけは超一流で揺るぎのない自信を持ってる。彼の唯一の自慢できることらしい。まぁ、それだけは嘘じゃなく…あたいも認めざるを得ない。こんな小男と見くびって軽くあしらってやるつもりが、逆に散々逝かされちまった苦い過去がある。 「どうせ、あんたが振った話なんだろうが?」  あたいがチャチャを入れる。 「俺のアレを思い出したか?」と言わんばかりに、あたいに振り向いてはニヤリと嗤う小男に、あたいはしゅんとなって口をつぐまざるを得なかった。   (2015/9/11 21:50:22)

マリア 居並ぶ美女たちの前で小男は得意満面。なんたって娼婦連中の間には彼のイチモツは知れ渡っている。「面白くもねえ…。」と黙りこむ他の男どもに、「お前ぇはどうよ? お前ぇはどうよ?」と、うるさく絡みだした小男に立ちはだかるように立ち上がったのが例の大男らしい。 「おおおっ…」っと辺りがざわめく。 二メートルを優に越える逞しすぎる巨体。そこから想像されるナニの大きさに、娼婦たちは頬を赤く染めてしまうほど。だけど娼婦の誰も彼の大きさを知る者はいなかった。どうやら娼婦を買ったことが無いらしいとの噂は前々からあって、「デカ過ぎて誰も相手してくれなくなったんだ」とか「一晩で十人の女を逝かせるらしい」とか、この男の巨体を見ればまんざら嘘でもないと思えるような噂がまことしやかに流れていたのだ。  唯一自慢の出来ることに水を差された小男は、「それじゃ決着をつけようじゃねえか。」と不安ながらにいきがって見せると、小男の言うところでは大男はこそこそと逃げ帰ったという。   (2015/9/11 21:50:33)

マリア「図体に似合わず、実は小せぇんだよ。バレるのが怖くて娼婦も買えねぇのさ。」  勝ち誇ったように小男が声を荒げる…。 「はいはい…。判ったからナニ自慢はそのくらいにしときな。」  小男の肩をポンピンと叩いて話を止めさせるあたい。マスターは話の途中にとっくにどこかへと姿を眩ませてる。 「やっぱり…今夜の仕事はやめておくとするか…。」  金は必要だが、お尻の違和感が取れなきゃ、財布をすった後に逃げるに逃げられない…。  まだ話し足りなそうな小男を尻目に席から立ち上がる。 「じゃあな…。」  小男を残して店をでるあたいは、相変わらずお尻を庇った艶めかしい歩き方で…。 「全く…。たまらん尻だぜ。」  残された小男はグラスを傾けながら、あたいの後ろ姿を見送りつつ、そう呟いた…。   (2015/9/11 21:50:44)

マリア バーから辛うじてアパートメントへと帰ってきたあたいは、目の前の階段を見上げては座り込んで絶望していた。 「無理…。」  この階段を上がり切る自信はどうしても持てなかった。階段の前にへなへなと座り込んで思案に暮れてるところに、二階から扉を開く音がする。  ギシッギシッっと床を踏み鳴らして降りてきたのは例の大男。さきほど聞いた噂話から思わずその股間に視線が行く。想像が掻き立てられると、「こいつにだけは、犯られたくない…。きっとがばがばにされちまう…。」そんなことを思いながら小さく身震いしてるあたいを一瞥しては、通り過ぎていく大男。出来ることなら関わり合いたくない処だけど…。   (2015/9/11 21:51:10)

マリア「ちょいと…済まないが。」  まさかあたいから声が掛かるとは思わなかったのだろう。立ち止まった大男は、ちょっと驚いたような顔でこちらを振り向く。 「歩けねぇんだ…。抱き上げて部屋の前まで運んでもらえねぇだろうか?」 「ああ…。」そういうことか、と頷いた大男は返事の声も発せず右手に大きな紙袋を抱えたまま、左腕であたいをひょいと持ち上げる。あたいを肩に乗せても全く変わらない足取りで階段を登った大男は、存外見た目とは違って優しくそっとあたいを床へと下ろす。   (2015/9/11 21:51:19)

マリア「あ…ありがとよ。」  悪びれる風もなくペコリと頭を下げるあたい。 「あ…。良かったら中で茶でも一杯…どうだい?」  あくまでもお礼代わりの積り。そんな言葉を掛けてみたものの、大男は何も答えずにそそくさと階段を降りて行ってしまう。あたいを娼婦だと思って、下手な芝居を打って部屋に誘い込もうとしてる…と、思われたのかもしれない。ちょっといたたまれない思い。まあ…でも部屋から出てきたところだったのだから、きっと用事があったんだろうと思い直しつつ部屋の扉を開ける。  部屋の中へと転がるようにして入り込むと、ベッドの上に倒れこむ。天井を見上げながら寝そべった体は、右の手の甲を額に当てつつ、いつしか睡魔に捕らわれるとぐっすりと寝込んでしまった…。   (2015/9/11 21:51:29)

マリア「マリア! マリアーっ!」  夢の中で男の叫び声が聞こえる。  何か危急の事態を知らせるような真剣で狼狽したような声。  それは低くってあたい好みの素敵な声。でも…聞き覚えのない声だ。「…んっんん。」それにしてもなんだか焦げ臭い。息が詰まるような寝苦しさに寝ぼけた瞼を開くと、部屋の中は辺り一面真っ白な煙に覆われてた。  扉を激しく叩く大きな音。  扉の外からはあたいの名を叫ぶ声が聴こえる…。夢の中で聞こえてた声だ。訳も分からず茫然となって動けないあたいの目の前に、扉を蹴破って入ってきたのは、あの大男。みるからにすごい形相をしてる。ビクっと震えたあたいは胸の前で祈るように両手を握っては目を瞑る。 「犯さないで…。犯さないでっ。」と必死に祈るあたいをベッドから抱き起こした大男は、あたいを傷つけないよう大事そうに抱きかかえて扉の外へと走りだす。階段を飛び降りるように駆け抜けるとアパートメントから表の通りへと飛び出して…。その少し後に、遠くから消防車のサイレンが近づいてきた。   (2015/9/11 21:51:38)

マリア「…そういうことだったのね。」  どうやらアパートメントの一階で小さな「ぼや」があったらしい。煙が建物じゅうに広がって大騒ぎになったものの、部屋の中を少し焦がした程度で済んだとの事だった。 「なるほど…ね。」  歩けないあたいを思い出して、急いで助けに来てくれたのだろう。まだ大男の腕に抱きかかえられたままのあたいは、事態が飲み込めてもまだ大男にぎゅっとしがみついていた…。 「また…助けられたね。」   (2015/9/11 21:51:49)

マリア そう一言告げて、大男の腕から降りる。こんな時にも無言を貫く大男を見上げると、そいつはあたいの胸元に視線が向いたまま固まってた。  ショーツ一枚の上にキャミソールを着ただけの格好に気付いたあたいは、慌てて胸の前で腕を十字に組んで恥ずかしそうにしゃがみ込む。勿論、恥態には変わりないが、全裸って訳じゃなし…。でも、大男にとっては衝撃的だった様子。もしかして今まで女性の肌に触れたことさえないのでは? とさえ思える余りにも純情過ぎる反応に、クスっと笑ってしまいそうだ。  ふと、気を取り戻して、あたいから目線を逸らした大男の鼻からつつつ…っと鼻血が垂れてきたのをあたいは見逃さなかった。   (2015/9/11 21:51:59)

マリア 消防署と警察の簡単な検分が済むと、二階は問題なく利用できるので戻ってもいいとのこと。  まだ、少しざわめく中、アパートメントの住人たちは部屋へと思い思いに戻っていき、鼻血を拭きながら大男も建物へと歩き出す。 「抱き上げてって…くれないのかい?」  背後から掛かった声に、はっとして振り返った大男は、あたいの側へと駆け戻る。なるべく視線を合わせぬようにしながら狼狽した表情であたいを抱き上げた大男。よく見ると年齢はまだ四十ちょっと前といったところだろうか。怖いと思っていた目つきも、よく見ると細いだけ。驚いてまん丸くなった目は可愛いとさえ思うほどに、あたいの大男に対する心象は変化していた。  ともかく、大男に抱きかかえられて、その夜は部屋へと戻った…。   (2015/9/11 21:52:11)

マリア 部屋へと戻ると、あたいをベッドの上にそっと降ろした大男はそそくさと帰ろうとする。 「ちょいと、待ってよ…。」  呼び止めるあたいの声に立ち止まった大男がゆっくりと振り返る。 「お茶くらい飲んでってよ。…いいだろ?」  まだ、どうしようかと戸惑う大男の腕を組む様に引っ張ると、無理やりソファへと座らせてはお湯を沸かし始める。 「確か、ここにあった筈。」  紅茶のキャニスター缶を戸棚の奥から取り出すと、湧き上がった新鮮なお湯でゆっくりと蒸らす。鮮やかなルビー色に染まった液体を二客のカップに注ぐとシナモンスティックを添えて、大男の隣に座り紅茶を差し出す…。  ちょっと気まずい空気。大男の緊張感がもろに伝わってくる。 「無口…なんだね。」  そう話しかけても、返ってくるのはズズズっと紅茶をすする音だけ。   (2015/9/11 21:52:19)

マリア「あのさぁ…。夢の中で聞いたんだ。あんたの声。」  カップを傾け紅茶を飲む手を一瞬止めた彼。その手はカタカタと小さく震えてる。 「なんか、慌てた声でさ。あたいの名前を大声で叫んでんだよ。初めて聞いたあんたの声…。ん…素敵な声だったよ。気に入っちゃった。その時は誰の声か知らなかったんだけどね。」  夢を思い出すように瞼を閉じて語るあたいに、彼はなんとなく照れてたようだった。  しばらく間をとった後に、あたいが言葉を続ける。 「…助けてくれて、…ありがとね。」  しんみり告げたあたいの声に、初めて彼は「ああ…。」とだけ返事を返してくれた。 「…にしても、もう少し打ち解けてくれたっていいんじゃない?」そう思って彼の顔を覗き込むあたいの格好はキャミソールのみの姿。キャミ越しにぷっくりと浮き上がった胸の先端の影に彼の緊張は極限に達していたらしい…。   (2015/9/11 21:52:35)

マリア「ね。…不躾な質問だけど、あんた…まだ、女を知らない?」  あまりにも直接的な問いかけに、彼はドキっとした様子。黙ったままの彼に返事を強要するつもりはないけど、あたいには何となく判ってしまった。 「やっぱり…あの噂話はでまかせだった訳ね。…うん。判ってる。あんたが言い出したわけでなく勝手に言い触らされただけだってこと。」  弁解を語りだそうとする彼を遮ってあたいが話し続ける。 「デカ過ぎて誰も相手してくれなくなったんだ…とか、一晩で十人の女を逝かせるらしい…とか…。全く…莫迦話もいい加減にしろって話だよね。」  デマを流した奴らに怒りの矛先を向けるあたいに、ぽつりぽつりと語り始めてくれた彼…。   (2015/9/11 21:52:45)

マリア …要するにだ。彼は噂話とは裏腹に自身のアレにコンプレックスを抱いてたらしい。  傭兵時代にある事件でアレを見られてしまい、その貧相さを散々揶揄されて自信を失ったばかりか、そのせいで女性を求めるどころか声を掛けることさえ難しくなってしまったとの事。 「そっか…。」  話に真剣に聞き入りながらも、ぼーっとしたあたいの視線は、いつの間にか彼の股間に向いてて…。うんうん…なんて相槌を打ってた。 「あっ…ごめん。そういう意味じゃ無くって…。」  彼の訝しがる視線に気付く。あたいの視線の先が彼の股間向いてたことに改めて気付くと、慌てて顔を背ける。ちょっと気まずい雰囲気が蘇ってしまう。な、なんとかしなきゃ。   (2015/9/11 21:52:56)

マリア 少しだけ間をとった後に、あたいがポツリと洩らす。 「もし、あんたさえ良ければ…。あたいが…あの…その…。…初めてのお相手、努めようか?」  驚きつつも「本当に?」と言わんばかりの笑顔を作ると、すぐに躊躇いがちな表情に戻る彼。そんな彼をを元気づけるように明るい声を出して励ましてみる…。 「大丈夫だってば…。」  それでも、まだもごもごとなにか呟いてる様子。聞き取りにくい声の中に「初めての相手が…」とか「娼婦だなんて…」なんて言葉が聞こえた気がした。カチンときたあたい。 「一つ、言っておきたいことがあるんだけど…。あたいはね…。娼婦じゃないっ…つうの。」 「へ?そうなの?」と、キョトンとした大男。まさか、ここに至ってまで、稼ぎの為に誘ってるのだとでも思われたのだろうか…と、思うと情けなくもなる。 「命を救ってもらったお礼と言っちゃなんだけど…。」  元気の無い男を奮い立たせたり、癒やしたりするのはお手の物…っていうか得意分野。噂話のような巨根でなければ怖気づくことなんてないんだから…。   (2015/9/11 21:53:07)

マリア 話が進んで、そのまますんなり行くと思いきや、ああだこうだ…と雑談がてらの身の上話が続いて時間が過ぎていく。 「へぇ…。それでその時は少尉だった訳?」  傭兵時代の話に盛り上がる中、二人の視線が重なる…。  ちょっとした空白の時間。  初体験で緊張するのは判るけど…ここまで来ると、引き伸ばしてるのがバレバレだって…。そんな思い。 「ね…。あたいと…したくないの?」  直球で尋ねるあたいに、意を決したのか開き直ったのか…彼が答える。 「い、いや…。やりたい。やらせてくれっ。」  おっと…。今まで躊躇う姿ばかり見せてた彼が、落ち着いた口調でハッキリと返事を返してくる。軍人にでも戻ったかのように、突然しゃきっとした姿を見せる彼は、思いのほか素敵に見えた。   (2015/9/11 21:53:19)

マリア ソファに腰掛けた彼の目の前で、ショーツを脱ぐ。キャミソールだけの姿で彼の前に立つと、脱いだショーツはテーブルの上へと投げ捨てて…。  次は彼の番。既にTシャツを脱ぎ捨て上半身を裸にしていた彼が、ベルトに手を掛けて外すとジーンズを下ろす。 「…え?」  トランクスに隠された自信がない筈のアレのもっこりは…、意外なほど大き過ぎて目を丸くするあたい。「ど…どういうこと?」癒やしてあげるつもりが、こちらがドキドキとさせられてしまう。さすがにトランクスを脱ぐのには抵抗があったようだけど、開き直って脱ぎ捨てた彼。股間にそそり立った肉杭は…思いもかけないほどに逞しくって…。 「あんた…。これで、自信喪失してたって訳?」   (2015/9/11 21:53:39)

マリア 今度は、彼が「え…?」と聞き返す。冗談じゃない。あたいの目の前にあるそれは、どんな男のモノよりも逞しく大きく見えた。二メートルを優に越える巨大な体躯にしてみれば、たしかに比率としては大きいとはいえないのかもしれない。でも、その絶対値は間違いなく他の男性のを超えてる。彼の巨体から化物のようなアレを想像していた奴らが、実物を見て、なんだ普通じゃないか…というのを、面白がって揶揄されたに違いない。   (2015/9/11 21:53:47)

マリア「あんたねぇ…。ほんっとに莫迦。これを巨根って言うのよ。」 「何だって?」と不思議がる彼を見つめながら彼の太腿を跨ぐ。「怖気づくことなんてないんだから…」の前言撤回。これはあたいの体がどうなっちゃうか想像するのも怖い。立ち膝で彼に向き合うあたいの恥唇に、そのままの姿勢で既にぶつかってるアレ。ひくひくっとアレが前後に蠢く度に、割れ目を擽られたあたいは、思わず小さな声を洩らしてしまいそう…。 「ゆっくり…だよ?」  彼の両肩にそっと手を置くと、ほんの少しだけ腰を落とす。ゆっくりって言ったのに、下からぐいっと突き上げる彼に、悲鳴のような喘ぎ声をあげてしまうあたい。   (2015/9/11 21:54:00)

マリア「んっ…ああ…っ…。あっ…はっっ…ぁぁん…っ。あん…。ちょ…ちょっと待って…。あっああ…。」  大きく張り出した彼の先端が、まだ濡れ始めてもいない恥唇を強引にこじ開けようとする。 「こ…こら。慌てないの。」  彼をなだめすかしながら、キャミの肩紐の片方をスルリと滑らせるように落とす。  彼の目の前に差し出した乳首がゆっくりと膨らみだすと、彼の熱い舌先が絡みつく…。 「あっ…はぁ…っん…。」  何度も何度も舐めあげられるうちに、堅く張り詰めていく乳首。恐る恐るとした彼の手が、もう一方の肩紐を下ろすと、キャミはするりと舞って腰のあたりへと落ちていく。彼の大きな掌が力まかせに乳房を握って…揉み上げられると痛いほど…。   (2015/9/11 21:54:34)

マリア「あっ…ん…。も、もっと優しく。」 「ああ。そうか…。」と、慣れない手つきで手加減を始める彼。でも、乳首を覆うように頬張った唇は、しゃぶりつくすように舐めては吸い上げて…その勢いは、もう止めようが無いほど凄まじい。 「んっ…あっ…あああ…。きゃっん…。」  次第に濡れ始めた恥唇から滲み出した蜜が、彼の肉杭の先端に絡まりだす。「もういい?」とでもお伺いを立てるような目をする彼。 「っ…もう。せっかちなんだから…。」  クスっと笑いながらも、「初めてなんだからしょうがないか…。」なんて思うと、小さく頷いてみせる。   (2015/9/11 21:54:44)

マリア 彼がくいっと腰を持ち上げる。まだ解れきっていないあたいの恥唇へと強引に入ってくる彼。その圧迫感だけで震えてしまうあたい。背中が思い切り仰け反って顎が高く上向く。ズンズンっとあたいの中へとめり込んでくる彼の肉杭は、思った通り、今までの中で一番逞しかった…。  僅かな痛みはあるものの、彼の大きな肉杭にあたいの中を占領されていく気分は、感動モノだった。これじゃあ、「一晩で十人の女を逝かせるらしい」と言われても信じてしまいそうだ。いっぺんに気分を高められて、思わずお尻がうねってしまうあたい。くねくねっと淫らな動きで揺れる腰…。   (2015/9/11 21:54:55)

マリア「…え? …えええ?」 「な、何なの?」入ってきたばかりの逞しい肉杭。いざ腰を揺らせようとしたその瞬間、彼の熱い迸りがあたいの中へと降り注がれる感触。 「ちょ、ちょっと…。ちょっと待ってよ…。」 「あっん…あ、ね。ちょ、ちょっと…あ、あん…。だ、だめっ。」  言葉にしてダメと言ったところで、もう遅い…。大量の白濁があたいの中を満たしてしまった…。「ま、まさか…承諾もなしに中出ししちゃうだなんて…。まさか…こんなに早く果てちゃうなんて。」   (2015/9/11 21:55:03)

マリア「な…なんてこと…。」  気持ちよさそうにビクンビクンと震えてる彼を睨みつける。申し訳なさそうに謝る彼…。 「ごめん。どうにも我慢ならなくって。」 「あ…あ…あ…。謝るのはそこじゃ無いから! 中出しってどういうつもり?」そこまで言葉にはしなかったものの、せめて、確認くらいして欲しい。  だけど、彼はただ単に自分が早く逝き過ぎて、あたいが逝けなかったことに不平を言ってるとでも思ってる様子…。 「あ…あのね…。そういうことじゃ無くって…。」  もう、なんて説明すればいいんだ…と悩んでしまい、諦めたように苦笑して…。 「…ん。もう…いいよ。中で出したいなら、ちゃんと先に言って。相手の了解なしに出しちゃうのは反則なんだからっ。」 「ああ。なるほど…。」と頷く彼。「全く…なるほど…じゃないよ。」安全日だったからまだ良かったものの…。   (2015/9/11 21:55:14)

マリア そんな小言を言ってる間に、彼の肉杭は急速に回復してくる。一旦少し萎え気味に思えたソレはあたいの中にとどまったままで、再び大きく張り出してきた。 「んっ…あっ…あああ…。なんて…す…すごいっ…。あっ…はぁんっ…。」  思わず再び仰け反ってしまうあたい。悔しいけどこの肉杭に貫かれたら、言葉を失っちゃうしか無い。それほど圧倒的な強さ。こんな逞しい肉杭に滅茶苦茶にされたい…そんな妄想まで目覚めさせられるすごさ。なのに…。なのに…。   (2015/9/11 21:55:35)

マリア ものすごい期待をあたいの中に目一杯膨らませておいて、続けてスカされちゃったあたい。絶望感とまでは言えないものの…「な…なんでなのぉ…。」と拗ねちゃいそうだ。 「ご、ごめん。」  再び、申し訳無さそうに謝る彼。あっという間に果てちゃっては、あたいの中に二度めの射精。謝りながらも満足そうな照れた笑顔を浮かべてる。 「あ…あう…。」  もう、頭を抱え込んでしまいたくなる。コレはちょっと鍛えてもらわなきゃいけないな…そう思案に耽ってしまうあたい。   (2015/9/11 21:55:52)

マリア「ご、ごめん…もう、たまらん。も…もう一回。」 「あ、あんたは不死鳥かい?」そんな言葉さえ言いたくなる。なんてこと。二度もスッキリした直後のくせに、こんなに回復してる彼。 「ン…。もう出しちゃうのは仕方ないけど……。もう、もうちょっとだけ頑張って。」  少し要領を得てきた彼は、調子に乗って腰をぐいぐいっと押し付け始める。誘われるように反応してしまうあたいのお尻。こんな快感に畝らずにはいられないって…。体がくねって、お尻が厭らしく揺れてれてしまう。 「あっ…ああ…あっはぁ…っっん…。あんあんあ   ……。 ……。」   (2015/9/11 21:56:04)

マリア 三度目の失望。 「こ、こらあ。」  三度目の白濁をあたいに浴びせて、満足そうに笑顔を浮かべる彼の顔をみると、もう何故か怒る気にもなれない…。 「もっ…。莫迦っ。」  拳を作って彼の頭を軽く小突く。それでも彼はとっても嬉しそうで…。   (2015/9/11 21:56:15)

マリア 二人で情事後のシャワーを済ませると、バスローブ姿でベッドの端に並んで座る。 「今夜は泊まっていくとしようか…。」  全く、随分と偉くなったもんだわね、あんた。さっきまでと態度が全然違う。でも自信を回復した彼は…やっぱり素敵に見えた。   (2015/9/11 21:56:24)

マリア「で…まだ帰らないの? あんたの部屋はあっち。恩返しはもう終わりだから。」 「ぼや」が起こった時に彼が蹴り飛ばして壊れたままの扉は床に倒れてて、廊下から中は丸見え。その向かいに彼の部屋の扉が見えてる…。 「あんたとは、これっきり。」と、はっきり判るような言葉に、自信を回復したばかりで凛々しく変貌と遂げていた彼の顔が、狼狽色に染まる。とたんにあたふたとした態度に変わってしまうのが、見ていて面白いほど。   (2015/9/11 21:56:34)

マリア「ところで。言っとくけど…このことを誰かに話しでもしたら…殺すからね?」 「殺す?」ぷっと吹き出すように笑う彼。「くぅ…。鼻で笑われた。」そりゃあ、こんな細腕でこんな大男を殺せるはずは無いのだけれど…。あのうるさい小男にでも知られたら。それこそ「ビッグベンに立て続けに犯られたマリアは、がばがば。」なんて噂を騒ぎ立てるに違いない。それだけはなんとしても止めねば…。 「確かに、殺すのはちょいと無理っぽいな。」  でも、なにか脅しの台詞がないと締まらない。ほんの少し思案に暮れるあたい。   (2015/9/11 21:56:42)

マリア「このことを誰かに話したら…。」  あたしは再び言葉を選びなおす。 「誰かに。話したら…?」  彼が復唱する。   (2015/9/11 21:56:52)

マリア「もう二度と…やらせてやんない。」   (2015/9/11 21:57:00)

マリア 恩返しはもう終わりと言われて、ショックを受けてた彼の表情がぱっと明るくなる。つまり…つまりそれって…。 「絶対、喋らないから…。」  彼が、あたいを力任せに抱きしめる。 「く、苦しいってば……・」 「あ、ごめん。」  と、そのまま覆い被さってきては、あたいをベッドへと倒しこむ。バスローブはあっさりと剥ぎ取られ、スラリとした脚を無理やり開かされると、内腿の間へ彼の逞しい肉杭が迫ってくる……。  必死に抵抗しながら、彼の大きな背中に回したあたいの両手は、背中をバンバンと叩く。そんなことなど意にも返さず、あたいを強姦する彼。「莫迦ぁ…。莫迦ぁ…。」と叫びつつ、いつしかそんな喘ぎ声は甘く色っぽいものへと変わって…。   (2015/9/11 21:57:13)

マリア「あ……。はぁん。あんっ。」   (2015/9/11 21:57:21)

マリア「ご…ごめん。」 「早撃ちのベン」とでも名付けてやろうか…。「パコッ…。」何かで彼の後頭部が殴られる音が響いた。   (2015/9/11 21:57:34)

マリア    (2015/9/11 21:57:38)

マリア    (2015/9/11 21:57:41)

マリア    (2015/9/11 21:57:43)

マリア    (2015/9/11 21:57:46)

マリア    (2015/9/11 21:57:47)

マリア【第三話】   (2015/9/11 21:57:59)

マリア「…もうっ。判ーった、判ーったから…ソレでいいよ。」  どう言う風の吹き回しか、今夜はマスターがしきりにカクテルを勧めてくる。「いつものでいいっ」と断るあたいに、「でも…。」とか「これは是非マリアに飲ませてやりたいんだよ。」とか、五度も勧められ直すと流石にどうでも良くなってくる…。  繁華街の場末の一角。古めかしく寂れたバーのカウンター席の端に腰を降ろしたあたいは、ひとつ大きく溜息をついて、半ば投げやり気味にそう答える。   (2015/9/11 21:58:06)

マリア あたいの名はマリア。この界隈でスリを生業として暮らしてる二十代後半の女狐ってとこ。その腕前の良さはまことしやかに噂が流れてるものの、それがあたいだと知る者は少ない。地元の人間に顔を知られるのもマズいもんで、狙いはもっぱらちょっと小金持ち風の旅行者。今のご時世…さすがにスリだけじゃやっていけないので、娼婦まがいなこともやってる。あたいが言うには娼婦詐欺ってやつで、自分自身じゃ娼婦とは思っていないが、人にとっちゃ同じようなものだろう。通りがかりの旅行者に声を掛け、安ホテルに誘い込み、バスルームへと客が入ってる隙に頂く物は頂いてさっさと逃げる。   (2015/9/11 21:58:14)

マリア 少し時間を置いた後に、あたいの前に差し出されたオレンジとレッドの彩り溢れるカクテルは、意外にもすごっく綺麗だった。グラスの先に添えられたフルーツが無色透明の綺麗な氷に映ってキラキラしてる。 「わ…。すご…。綺麗…。」  と、一瞬、無邪気に目を輝かせてしまうと、気になる周りの視線。慌てて如何にも何でもないといった風情を作るあたい…。 「きゃ~っ。綺麗~っ。可愛い~っ。素敵~っ♪…とか、あたいに言わせたい訳?」  素直じゃないな…とは思いつつも、そんな受け答えしか出来ない変な所で照れ屋なあたい。でも、普通の女の子扱いをしてもらってるようで…内心ちょっと嬉しかったりする。  氷が溶けて傾くとマドラーが揺れてチリンと鳴る。その可愛い音にさえ思わず小さく笑みが零れてしまう…。そんなあたいの笑顔を目ざとく見つけたマスターと隣の席の小男が「くくくっ」と背中を震わせて笑う。 「…な、何だよ。こっち見んな。」  照れ隠しもバレバレだ…。   (2015/9/11 21:58:21)

マリア 中肉中背で五十歳前後のマスター、それに痩せこけた三十代後半の小男が、何やら見つめ合って「にひひ…」と気味悪い笑顔を浮かべては、時々こちらを覗く。 「あっ…。こいつは美味ぇ。」  ひとくち味わったあたいが声を上げる。 「そうだろそうだろ?」  と、頷きながら相変わらず薄笑いを浮かべてるマスターに、スツールを回して背を向けると、一気に半分ほど飲み干す。「この色…素敵だな。」金属製のマドラーの柄の先に飾られているエメラルド。勿論、イミテーションだろうが、本物の宝石の様に球形にカッティングされたそれは本当に綺麗だった。柄の反対側の先には直径一センチ半程の金属の玉が付いてる。「なんか、これ…大きすぎないか?」などと思いつつも、そんなどうでも良いことはすぐに忘れて…。   (2015/9/11 21:58:35)

マリア「あ、そうだ。マスター。臨時収入があったんでツケ払っとくよ。いくらある?」  そう言うとスツールの向きを戻しつつバッグから焦茶の財布を取り出す。財布と言ってもポーチといってもいいような大きな財布だ。そこから数枚の紙幣を抜き取ってカウンターへと置く。 「ん…? 何だこりゃ?」  財布の中にクロム光沢に輝く金属製のおかしな物体が目に留まる。長さは六~七センチはあろうか…。直径一センチ程の筒状形は先端が丸まっていて、反対側は電池の突起のような形状。 「これ…なんだと思う?」  二本の指で筒状形のそれを摘み上げて目の前に掲げてみせる。   (2015/9/11 21:58:44)

マリア「銃弾じゃねえのか?」  その大きさに小男が適当な事を言う。 「銃弾って先端、丸かったっけ?」  あんた莫迦ぁ? と、細目で侮蔑の表情を作ると、端を摘んだまま、筒状形の丸まった先でコンコンと小男の鼻先を突付く…。  その瞬間、カチっとスイッチの入った音が聞こえると、突然激しく振動を始める物体。驚いて思わず指から落としてしまったその怪しい物体は、綺麗とは呼べない床の上で、ブーンと低い音を唸りながら振動し悶えてる。  小男と合わせた視線…。小男と動きを同期させたように、その視線を同時に床へと向けて…。あたいが、ぼそっと呟く。   (2015/9/11 21:58:57)

マリア「これって…もしかして…。」  笑おうとする口元が引きつる。 「…ロータだな。」  小男がズバリと断定する。 「や…やっぱり?」  慌てて床から拾い上げるとスイッチを切り、財布の中へと戻す。 「ああん? 新しいお友達の紹介か? 今、あたいこれ気に入ってんの。」  小男が女のように体をくねくねさせながら、あたいの姿を真似るように揶揄する。勿論、直後にあたいの拳骨が小男の頭に振り下ろされたのは言うまでもない。   (2015/9/11 21:59:06)

マリア「身成りの良さそうな奴だったけどな…。銀行マンとか言ってたっけ…。」  数日前に安ホテルに連れ込んだ男の顔を思い出そうとしてみる…。だめだ。思い出せない。目の前にでも現われりゃ、こいつだっていうのは判るんだけど…。 「あの…野郎。こんなもので、あたいを陥とせるとでも…。」  めらめらと燃え上がる怒り。…いや、被害者は銀行マンのほうだから。と、あたいの小さな良心が心の中で口を挟む。 「何にしても、いいもん貰ったじゃねえか。今夜早速試してみるってか?」  二発目の拳骨は顔面へと入った。カウンターに伏せる小男。 「誰が…こんな誰が使ったかわからんものを…。」  小さく歯ぎしりするあたいの心情を読みきったかのように、マスターが一言かける。  「綺麗に洗って、消毒すれば平気平気。」  にっこりとあたいに微笑みかけるマスターに、口開けて呆然とするあたい…。 「マ、マスターまで…。」   (2015/9/11 21:59:17)

マリア ふと、バーの扉が開くと一人の男が入ってくる。黙ったままカウンターへと向かった男は何やら紙袋をカウンターへと乗せる。男の元へと駆け寄ったマスターと男との間になにかやり取りがあったようだ。小さな封筒が見えた。その一瞬、ちらっと男と視線がぶつかった気がする。慌てて視線を外すあたい。怪しい雰囲気を身に纏った男…。「何者だろう?」と、思いながら何気ない仕草で振り向き直した時には、もう男はそこに居なかった。 「誰だい? あの男…。」  何事もなかったかのように、あたいらの前へと戻ってきたマスターに声を掛けてみる。 「旧い知り合いさ…。」  面白くも無さそうにマスターが答える。話したくない事を無理に追求するほど暇じゃあない。こんな顔をした時のマスターには、何言っても情報は出てこない。   (2015/9/11 21:59:35)

マリア ズズズ…ッと行儀の悪い音を立ててカクテルを飲み干したあたいは、さっきから気になってるエメラルドの飾りのついたマドラーで、溶けずに残った氷を突付きながら暇を持て余してた…。 「…ったく。この店には、客になるような客が来ねぇのかい。」  テーブルの席を埋めてるのは、どいつもこいつも見覚えのある地元の奴ばかり。 「もう一杯どうだい? 気に入ってもらえたようだし…。マリアに似合うカクテルだろ?」  ムスッとしていた顔がいつの間にか営業スマイルへと戻ってるマスター。   (2015/9/11 21:59:47)

マリア「マリア…。そういえばよ…。」  カウンターに突っ伏したまま顔だけこちらに向けて、小男が何か言いたそうだ。少し躊躇った後、何かを言いかけた小男の口を封じるように、徐ろに席を立つあたい。」 「とりあえず、その辺りを一周りしてくるわ…。」  そう告げると同時に、瞬きする間もない早さでグラスから「エメラルドの飾りが付いたマドラー」をくすねるとバッグへと仕舞いこみ、足早にバーを後にする…。   (2015/9/11 21:59:55)

マリア あたいの居なくなった席に残されたグラスにマスターと小男の視線が向く。マドラーもマリアと共に消え去ったことを確認した二人は、目を合わせて「にひひ…」と厭らしい笑みを浮かべてたのを、あたしは知る由もない。 「ああ…。見込みありだな。」  マスターがポツリと呟く。 「当ったりめぇよ。俺は出会った時から気づいてたぜ。」  小男が言葉を継ぐ。 「しかし、いつ気づくかね?」  先は長そうだ…と目を瞑るマスター。 「気付かん時は…ほら、こうやって…。」  軽く握った左手の拳の中に、右手の人差指を出し入れする仕草をしてみせる小男。   (2015/9/11 22:00:34)

マリア「ふむふむ…。何気なく教えてやるとするか。」 「にひひ…」と、再び目を合わせたマスターと小男の顔に、厭らしい笑みが浮かんだ。 「こんな小さな楽しみでもなきゃ、やってられんって…。」  小男が愚痴を零し始める。 「なんだ、また逃げられたのか?」  冗談を装ってマスターが訊き返す。小男が何度も女房に逃げられてる話は地元の人間で知らない奴はいない…。が、それを方便にし、同情を誘っては女に構ってもらうのも彼の手口のひとつ。 「で…。今回は本当か?」  マスターが念を押すように訊く。 「ああ…。今回は本当に、参っちまった…。」  小男が大きく吐いた溜息は、勿論、あたいの耳には届かなかった。   (2015/9/11 22:00:46)

マリア 小一時間も外を流してみたが収穫はなし。雨もぽつぽつと降り始めてきたので小走りでバーへと戻る。店の扉を開き中へと飛び込むと普段より閉店時間が早いのか、照明は半分落とされ、客が帰った後の店内でマスターが一人で片付けをしていた。 「どうだった?」  塩梅を伺うマスターに無言のまま首を振ると、椅子をひっくり返しテーブルの上へと重ね、床の掃き掃除と洗い物を手伝う。 「早仕舞い…なんだね?」  そう訊いたあたいに、「すまねえな…。」と一言だけの返事が戻ってくる。小男も帰っちまったようだし…他に当てがあるわけでもない。今夜のところは大人しく帰って寝るとするか…。マスターから傘を借りると、土砂降りに変わった深夜の暗がりの中、家路につく。   (2015/9/11 22:00:56)

マリア 安アパートメントの前へと辿り着く。ちかちかと時折点滅する街灯を苦々しく思いながら、建物の扉を開き階段へと歩みを進めると、全身をびしょ濡れにした小男が階段の一番下に腰掛け座り込んでいた。 「おいおい、やめとくれよ…。」  靴音に気づいた小男が顔を上げると、同情を誘うような哀れな視線をあたいへと向ける。その視線を払うかのように手を振るあたい。血の気の失せたような青ざめた表情は、一見の価値あり…とも思えるような迫真の演技に見える。 「毎度毎度、騙されんのはゴメンだよ…。」  座り込んだ小男に関わらぬように、その横をすり抜け階段を上がる。また嘘だろうとは思うものの背後が気にならぬ訳ではない。やや遅れてあたいの後に小男の靴音がついてくると、「ちっ。仕方の無ぇ奴…。」と口の中で呟きながら少しだけ安堵の表情を浮かべるあたい…。   (2015/9/11 22:01:07)

マリア とりあえず、風邪でも引かれて移されちゃ堪ったもんじゃない。 「ほらよっ…。」  そう言って放り投げたバスタオルを受け取った小男は、体を拭こうともせず立ち尽くしてる…。 「おいおい。今回は手が混んでるな…。」…そうは思っても放って置けるものじゃない。小男に近寄るとバスタオルを取り上げて、たじろぐ様に動こうとしない体を、「しようが無ぇな…。」と言いながら拭いてやると、一言二言…と、ぽつりぽつりと小男が語り出す。 「今回だけは…本当にどうしようもねぇ。」  紫色に震えた唇から辛うじて紡ぎだした小男の台詞。疑いを持ちつつも「もしかしたら…」と思わされて信じることにしては騙される。何度もあったパターンだ。呑んだくれたり女遊びが過ぎたりで、いつもは一方的に愛想を尽かされることしかないのだが、今回はどうやら違うようだった。小男の両親は母親が早世。父親は健在だったが、ようやく七十歳を迎えようかという若さで認知症がかなり進行したらしい。その父親を引きとる引き取らないで揉めた様子。   (2015/9/11 22:01:17)

マリア「俺ぁ、自分勝手だからよ…。」  今朝、言ってはならない言葉を妻に吐いて仕事に出かけた小男。いつもの様に酔った姿で家へ帰ってみると、家財道具一式もぬけの殻だったと言うのだ。   (2015/9/11 22:01:27)

マリア バスタオルでいくら拭いても埒があかない…。バスタオルを持った手を止めて、あたいが言う。 「シャワー…入れよ。」 「ああ…。」と小さく答えては、濡れた服を下着もろとも床にぶちまけるように脱ぎ散らかすとシャワールームへと入っていく小男。 「で…? なんて言ったんだよ?」  濡れて汚れた奴の服や下着を拾い集めると、洗濯機へと放り込みながら聞きただす。しばらく待ってみたが返事は返って来なかった…。 「あんた、莫迦だからね…。後先考えず、酷ぇこと言ったんだろ? いつものことじゃねぇか。誠心誠意、詫びりゃ済むって話さ。」  シャワーの流れだす音が聞こえ出す。 「俺ぁ、馬鹿だからよ…。」  中からそう返事はあるものの、曇りガラスから薄っすらと透けて見える影は全く動いていない。   (2015/9/11 22:01:36)

マリア「大丈夫…かい?」  ちょっと気になったあたいは、ドアを開けて中を覗き込む。シャワーを頭から被りながら背中を向けて立ちすくんでる奴の肩は小さく震えて見えた。音を立てずに静かにドアを閉める。一度大きく息を吸い込んで、ふぅっと息を吐き出しながら、小さな覚悟を決めたあたいは、服も下着も脱いで全裸になるとバスルームのドアを開く…。 「いつまで、何やってんのさ…。」  そう言葉を掛けながら、ソープでたっぷりと泡立たせたスポンジを奴の背中へと宛てがっては滑らせ始める…。貧相な体にしては筋肉は引き締まって活動的にも見える。背後から手の届くところまでを一通り洗い済ませると、脇から潜らせた手を奴の前へと伸ばしスポンジを渡す…。 「元気…お出しよ…。」  そう言って裸の胸の膨らみをそっと奴の背中へと押し当てる…。その刺激に一度小さくビクンと震えた奴の体。しばしの沈黙の後、奴はこうのたまった。   (2015/9/11 22:01:48)

マリア「マリア…。お前ぇ、魅力落ちたな。」 「な…なんだって!」後からぶん殴ってやろうと思った瞬間に奴の言葉が続く。 「…俺の自慢のイチモツが、ピクリともしねえ。」 「ぷぷっ…。」思わず噴き出しちまうあたい。そうだった。いつもは獰猛この上ない奴のイチモツは、いざ本気で落ち込んでしまった時には、にっちもさっちも行かなくなる事を思い出す。「今回は、嘘じゃなかったって訳だ…。」改めてそう思い直したところに、再び奴の声が響く。 「おいこら。レディに失礼だろ? ちったあ頭をもたげろ。」  シャワールームを出て行くあたいに、聞えよがしにイチモツへと語りかける奴に腹を抱えて笑っちまう。奴の声色がほんの少しだけ戻ってきたのを感じながら…。   (2015/9/11 22:01:57)

マリア 全裸の上にバスローブを羽織り紐を結ぶ。そんな姿のままでベッドの上でひっくり返り、天井を見上げながら脚を組んでるあたい。同じくバスローブを着てソファの上でだらしなく寝そべってる小男。さすがに眠い…。  ベッドから起き上がると「もう寝るよ。」とひと声掛けて明かりを消す。ベッドに潜り込んで深い眠りに落ちていくその瞬間に、「腹減った…。」と、ソファから眠りを邪魔する声がする。 「うっさい。寝ちまえば忘れるって…。」  そう答えると黙りこむ小男。しばらく物音が聞こえてこない。「ようやく寝たか…。」と思い眠りにつく。突然、耳元で「腹減った…。」との声に飛び起きるあたい。奴は暗がりの中であたしの寝顔を覗きこんでた。   (2015/9/11 22:02:10)

マリア「…ったく。心臓に悪いってば。…もう判ったから、ちょいと待ってな。」  そう言いながらドキリとさせられた胸元を押さえながら、ベッドから起き上がると明かりをつける。冷蔵庫の中を物色してみても大したものはない。 「大したもの無いけど、何でもいいだろ?」  そう言いながらも文句は言わせない。「うんうん。」と頷く奴に背中を向けて、あたいはキッチンに立った。   (2015/9/11 22:02:18)

マリア パスタを茹でながら、賽の目切りになった冷凍野菜とグリーンピース、そして数本のソーセージを幾つかに切り分けたものをフライパンで炒める。茹で上がったパスタの湯を切ってフライパンに一緒にぶち込む。あとはオリーブオイルを掛けてかき混ぜるだけ。仕上げに生卵を一つ落とし、もう一度軽くかき混ぜ、塩コショウで簡単な味付けをして出来上がり…だ。 「ほらよ…。」  奴の前に差し出した、なんちゃってカルボナーラ。それでも奴は貪るように食い始めた。口の中にパスタを詰め込み詰め込み、時折満足そうに頷く姿を、向かいに腰掛けてながら頬杖を付いてその食べっぷりの眺めていると、奴が話しだす。 「マリアの料理の腕は……、いつまで経っても上がんねえな。」   (2015/9/11 22:02:30)

マリア 全く、口の減らない奴。まあ口が悪いのは元々だし、こういう言葉が出てくるようならもう大丈夫だろうと思う。 「何言ってんのさ。食いたくなきゃ無理に食わんくたっていいんだぜっ…。」  そう言って、パスタの皿を取り上げようとするあたいの手を、肘でガードし、パスタを守りながら、奴が続ける。 「こ、こんなもん…。うちの奴の手料理はな、世界で一番…」  そこまで言いかけた所で奴の手が止まる。…そう。今、あんたのその奥さんは居ないんだよ。確かに奴の奥さんの料理の腕は近所にも評判だったと聞いてるけど…。しばしの沈黙が続いた後、口をもぐもぐとさせた行儀の悪い態度で彼がポツリと呟いた。 「…世界で二番めに旨ぇ…よ。こいつは。」  思いもよらぬ言葉に、何故かちょっと涙が出そうになった…。   (2015/9/11 22:02:39)

マリア 奴が食べ終えた皿を片付ける。キッチンで使い終えた食器を洗うあたいの後ろ姿を、ソファにもたれてながら黙って見ていた小男が、再び話し始める。 「ところで…ケツの痛みは治まったのか?」 「な…なんでそれを知ってる!」と、頭のなかでそう答え一瞬ビクつくあたい。 「な…何よそれ。」  明確な否定もできず話をかわそうと試みる。「くっくっく…。」と笑う小男。 「隠せてるとでも思ってたか? バレバレじゃん。みんな知ってるって…。」 「え…。えええ。え~~。うっそ…。」言葉にして反応は見せない。上手くやり過ごしたと思ってたのに…。   (2015/9/11 22:02:52)

マリア「初めて…だったんだろ? アナル。」  顔が真っ赤に染まってしまったあたいは、背中を向けたまま振り向くことが出来ない。あたいを辱める様に更に言葉を重ねる小男。 「で…どうだった? 良かったか? あああっ…ん。マ、マリア、もうめろめろん…。」  小男お得意のあたいの真似。女のように体をくねくねさせながら、震えたあたいの体を姿勢で表現する。さすがに、今回だけは恥ずかし過ぎて、殴ることもままならない…。い、いつか殺してやる。   (2015/9/11 22:03:00)

マリア 調子に乗った小男はソファから身を乗り出して立ち上がると、固まったまま振り向けないあたいの背後に迫る。広げた掌をあたいのお尻に重ねると、バスローブの上からではあるものの、恥ずかしい蕾の真上あたりを丸く優しくさすりだした。 「痛いの…痛いの…飛んで…行けー…ってな。」  お尻を触れられた感触よりも、痛いところを知られて、しかも擦られてしまう恥ずかしさに、「莫迦ぁ…っ。」っと小さく呻くことしか出来なかった。   (2015/9/11 22:03:12)

マリア「ま…。もう違和感はとれたってとこか? どうだ? そろそろ、また経験したくなってんじゃねぇのか?」  あたいの肩がプルプルと小さく震えだす。 「手前ぇ…いっぺん殺ス。絶対殺ス。」  まだ頬を真っ赤に染めた顔で振り向くあたいに、「おお。怖ぇ…。」とソファへと逃げ帰った小男が嬉々として喋り続ける。 「別に、恥ずかしいことじゃねぇってば。誰でも通る道ってぇことよ…。せっかく目覚めたんなら、俺らが優しく導いてやるから心配すんなって…。」 「何?なになになにーっ? 何言ってんのこいつ。」め、目覚めたって…誰がよ? め、目覚めたって…何によ? そう頭のなかでは反発してみるものの、顔は先程にも増して真っ赤っ赤に染まってしまう。 「導いてやるって何をよ。そもそも俺らって…?。」 「あっ。やべぇ…。」とばかりに口をつぐむ小男。それでもにやにやと笑みを浮かべたまま「間違いなく、こいつは脈あり…だな。」と確信を持って…。 「まぁ…。そのうち追い追いな。」  話を収める小男に、まだ追求して詰め寄りたい気分は満々だったが、闇雲に責めてもヤブヘビのような気がして、あたいも口を閉ざす。   (2015/9/11 22:03:26)

マリア「寝そびれちまったねぇ…。」  しばらく時間が経過して…。テーブルを挟んで向かい合わせに座ったあたいらは、インスタントコーヒーをマグカップで飲みながら、ぼーっとしていた。  窓に打ち付ける激しい雨の音が何となく心地よい。 「で、どうすんのさ? あたいだっていつまでも置いとけねえよ?」  久しぶりに口を開いたあたい。 「判ってるって…。」  怠そうに答える小男。 「そういえば……。あの日も、確かこんな雨の夜だったな…。」  不意に話が飛ぶと、背もたれに頭を預けた小男が遠い目をして、ぽつりと呟く。 「…その話は、止めて。」  そう言うとソファから立ち上がるあたい。 「もう…寝るっ。」  そう言い残して、ベッドへと潜り込むと猫のように小さく丸まって…。   (2015/9/11 22:03:46)

マリア 体を丸めたまま瞼をそっと閉じたあたいは、いつのまにか夢うつつの中へと迷い込む。それは、あたいがこの町に舞い戻ってきた三年前の事――。  部屋を借り、最低限の家具を揃えただけで、なけなしの金はあっという間に無くなって、あたいは当面の生活費にも困ってしまってた。故郷と呼べる町ではないにせよ、あたいが唯一、心の拠り所に出来るのはここしかない。  孤児だったあたいには両親の記憶はなく、おぼろげに思い出せる遥か昔の遠い記憶は、この町から始まるのだ。 …といったところで、この町に身寄りがいる訳でも無ければ、知人・友人が住んでる訳でもない。辛うじてあたいとこの町を繋ぐのは、郊外にある修道院に併設されていた孤児院。…あたいが育った場所。  無論、修道院に無心しに行くわけにはいかなかった。だからといって絶望するのは早い。なんたってあたいには腕があったから。それは洗練され卓越した技術。目にも止まらぬ早業で上着の内ポケットから、財布を盗みだす…即ちスリの技術だ。加えて、ごく自然に人にぶつかってはしおらしく謝る演技にも長けている。あたいは、この技術で都会での五年間を生き抜いてきたのだ。   (2015/9/11 22:04:00)

マリア「どこかに、美味しい獲物でも転がってねぇかな…。」  さすがに小声でそんなことを呟きながら歩いていると、手頃な客が見つかった。  通りを行く美人に右へ左へと視線を飛ばしながら、にへらっと厭らしそうな笑みを浮かべてふらふらと歩いてる貧相な小男。たいした金は持って無さそうだが、当面の飯代くらいにはなるだろうと、あたいはふんだ。その歩く姿は危なっかしくて、おいおい大丈夫かよ…と思う。時折、つまづき転びそうに見える。 「あっ…ああ、危ないっ。」  思わず両手で目を覆っちまう。横を通り過ぎる抜群のプロポーションを持つ美女に目を奪われた小男のすぐ前に電信柱が…。しかし、次の瞬間、耳に目でも付いてるかのように、ヒラリと障害物をかわす。   (2015/9/11 22:04:12)

マリア「や…やるじゃん…。」  あたいは妙なところに感心してしまった…。とはいっても獲物を見逃してやるあたいじゃない。おっし…今だ。 「きゃっ…ぁん。」  小男にぶつかっておきながら、その場に尻もちを付いて倒れこむ。ここまでは予定通り。 「ご…ごめんなさい…。ちょっと余所見してて…。」  申し訳無さそうに謝るあたいを、少し怒った表情で睨むものの小男の顔つきには迫力はない。「ちょっと、サービスしてやろう…。」小さな悪戯心が湧き上がるあたい。尻もちを付いて投げ出してしまった両脚が小男の目の前で開かれてしまってる。意識的にもう少し広げるとミニは捲れ上がって、白いショーツをチラリと覗かせる。奴の視線は釘付け。あたいは恥ずかしそうに股間を両手で隠しながら立ち上がる…。勿論、演技だけど。   (2015/9/11 22:04:22)

マリア「本当にごめんなさい。い…急ぐのでこれで…。」  小走り気味に去り行くあたい。勿論、あたいの手にはしっかりと財布が握られてた。 「あ…。いいっていいって…。気をつけてな。」  財布をスラれたことにも気付かず、目尻を垂らしてニヤついたままの小男は、小さく手を振りながら、走り去るあたいのキュートなお尻を呆然と眺めていた。  あたいの股間に釘付けだった小男、たぶんあたいの顔なんか覚えちゃいまい。 「ちょろいもんさ…。次は気ぃつけな、お莫迦さん…。」  降りだした雨に、急いでアパートメントへと戻ったあたいは、ベッドに腰を下ろすとそう呟きながら、財布を開ける。 「え…ええっ…?」  そこには、小男には不釣り合いな目を見はるほどの大金が入っていた…。 「こ、こんな積りじゃなかったのに…。」  少しばかり心が傷んだ。  「いや、あんな格好してても実は成金野郎なんだって…。」そんな言葉で自分を落ち着かせてみようと企む。でも、無理。小男の姿を何度も良ーく思い出してみても、決して裕福そうには見えなかった。心がすごっく傷んだ…。   (2015/9/11 22:04:42)

マリア「どうしよう…。」  格子の窓に土砂降りに変わった雨が激しくぶつかり始める。二階の窓から通りを眺めながら「はぁ…っ」と小さな溜息をつく。  通りに開いた傘の花は、ひとつまたひとつと消えて、いつの間にか人通りはまばらなものへと変わってる。そんな中、傘もささずにびしょ濡れになって、通りを何度も何度も行ったり来たり走り回ってる影に気づく。「さっきの…あの、小男だ。」瞬時にそう直感する。窓ガラスに額を付けて食い入るように眺めてみると、あの貧相な格好は、たしかにあの小男に間違いない。「大変な事をしでかしちまったのかもしれない…。」とあたいは青ざめる…。居てもたっても居られない…。でも、あたいは外を駆けずり回る小男に財布を返しに行く勇気を、その時は持てなかった。   (2015/9/11 22:05:01)

マリア やがて、辺りが暗くなってくると小男の姿も見えなくなる。気になって気になって、思わず部屋を飛び出すと階段を駆け下りる。一階の小さなロビーのような玄関先から、扉を開いて外を覗く。暗がりに目が馴染んできても走り回る男の影はもうない。一歩二歩と前に出て、もう少しだけ見回してみる…。「諦めて、帰っちゃったかな…。」そう考えながら、中へ戻ろうと踵を返すと、すぐそこに走り突かれてぐったりとなった小男がアパートメントの壁に背をもたらせて、ずぶ濡れの姿で座り込んでいるのが目に入ってきた。   (2015/9/11 22:05:08)

マリア「ちょ…ちょっと。大丈夫っ?」  反射的に、座り込んだ小男を抱き起こそうと手を伸ばすあたいを、「誰だ? あんた。」と呟きながら力ない顔を上げる小男。  とりあえず、こんな土砂降りの中、放ったままにはしておけない。小男の腋下に肩を挟んで体を起こしアパートメントの中へと押しこむ。ふらついた足取りで階段をようやく登り切ると、廊下の一番奥、あたいの部屋へと招き入れた。  上着を脱がされても、ただただ呆然と立ち尽くしてる小男にバスタオルを持って近づくとずぶ濡れの髪の毛を拭き上げる。 「服は、もうどうしようもねぇな…。洗っとっから、とりあえず熱いシャワーでも浴びといでよ。体、冷えきっちゃってるし…。」  あたいに腕を取られてバスルームへと案内されると、それでもどうやら一人で服を脱ぎ捨てると奴はそのままバスルームへと入っていった。   (2015/9/11 22:05:19)

マリア シャワーから上がって来た小男がバスローブ姿で、やつれた表情を見せながらソファに座り込む。あたいお手製のなんちゃってカルボナーラを「不味い不味い」と言いながら全て食べ終えるとひと心地ついたのか、やがてゆっくりと小男は話し始め、あたいはひたすら奴の話を聞き続けた。  危惧を覚えていた通り、小男の経済状況は裕福なものでないことを知る。小学生に上がったばかりの息子と、生まれたばかりの娘…との四人家族。あの大金が、この家族から失われるのは、家庭崩壊にも繋がりかねないことは容易に想像できた。だいたいコレほどの大金を持って出かけた旦那が夜になっても返って来ない…なんて、今、この瞬間も奥さんは気が気では無い筈。  こんなことも判った。小男は自分の不注意で落としたものだと信じて疑っていない様子。呆れるほどにおめでたい奴だ。小男の話しぶりから、あたいがさっきぶつかった「股間に釘付けにされた女」だとは思いもよらぬらしい。   (2015/9/11 22:05:32)

マリア「あんたの身の上話など興味はねぇが、災難だったな…。夜も遅ぇし、この雨も止みそうもねぇ…泊まってくかい?」  こんなあたいを娼婦とでも思い込んだのだろう。「…そんな持ち合わせはねぇ。」と来たもんだ。普段なら、「あたいは娼婦じゃねぇ!」と殴り飛ばすところだが、さすがに今夜は負い目が大きい。 「金は、取らねえよ…。まぁ…好きにしなっ。」  そう告げると部屋の明かりを消しベッドへと潜り込む。いつしか睡魔に襲われ寝付けなかった体は浅い眠りに落ちる。  どのくらい眠っただろうか。あまり眠れた気がしない…。何やらもぞもぞと蠢く気配に目を覚ましたあたいは、胸の谷間に顔を埋めて小男がぐっすりと眠り込んでる姿を見つけ愕然としちまう…。 「ず、図々しい奴…。」  だが、怒る気は起きなかった。  小男の髪を優しくひと撫ですると、起こさぬよう注意を払いながら、そっとベッドを出る。   (2015/9/11 22:05:43)

マリア「ごめん…。これだけはどうしても必要なんだ。」  小男が起きだしてこないうちに、やって置かなければいけない事がある。  財布の中から三枚だけ紙幣を抜き取ると、残りの全ては財布に残したまま、小男の上着のポケットへと返す。腰が崩れ落ちてしまいそうな安堵感が全身を襲う。あたいは、この時初めて神様っつうものに感謝した。「返す機会を与えてくれて…ありがとう。」と。   (2015/9/11 22:05:51)

マリア 昼近くになって、ようやく小男が目を覚ます。体を起こして部屋を見渡すが、もうそこにあたいの姿は無い。ベッドの脇には綺麗に洗濯された服と下着が置かれ、その上に二つ折りになった小さな紙切れを見つけた筈。あたいが残した書き置き。その頃あたいは、通りに面したビルの壁に背をもたらせながら、行き交う人々を遠目に眺めて、次の客を物色してた。 「あいつ、いつ頃気づくかね…。家に帰ぇるまで気付かねぇかもしんねぇな…。お莫迦な奴だし。」  クスッと小さな思い出し笑いを一つ浮かべると背を起こす。気持ちが少し軽くなると、あたいは昼飯へと歩き出す。右手に奴からくすねた三枚の紙幣を持って…。   (2015/9/11 22:06:03)

2015年09月11日 21時40分 ~ 2015年09月11日 22時06分 の過去ログ
モノローグ/マリア
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