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「モノローグ/マリア」の過去ログ

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2015年09月11日 22時06分 ~ 2015年09月11日 22時33分 の過去ログ
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マリア「んっ…んん。」 「変な夢、見ちまった…。」夢うつつの中から現実へと戻ったあたしは、頭を二・三度振って目を覚ます。何だか妙な感覚だ。体を包んでるはずのバスローブの感触は見当たらず…これは全裸? それに何だこの手首にまとわり付く冷たい金属の感触。寝ぼけた眼に飛び込んできたのは、手錠に繋がれた姿だった。 「な、何よっ、これ。」  いっぺんに眠気も吹っ飛ぶ。手錠に繋がれた手を引くが、限られた範囲に自由を制限され、それ以上動かすことは叶わない。手錠に繋がれた鎖はパイプベッドの端に繋がれているようで、引かれた鎖がチャリンと音を立てる。   (2015/9/11 22:06:16)

マリア「お…。起きたかマリア。」  ソファで休んでいた小男が鎖の音に気づいて声を掛けてくる。 「な、何だよっ…これは一体。」  狼狽した声が、それでも強気に抗議の声を上げる。 「まぁ…落ち着け。お前ぇを痛めつけたり、傷つけたり…そんなことは在り得ねぇから…。ただ…マリアにはもっとイイ女になってもらわねぇとな…。」  ソファから身を起こした小男がベッドへと向かって来る。 「ちょ…ちょっと待て…。近づくな。」  囚われた両手で胸を隠す。座ったままじりじりと後ずさりをするあたい。でも、これ以上後ずさりをすると両手は胸から離れてしまう…。   (2015/9/11 22:06:33)

マリア「心配いらんって。優しく…気持良く…少しづつイイ女へ変えてやるからよ。」  ニヤついた笑顔でベッドの端に腰を下ろした小男の視線が、いつになく恥じらいに満ちた全裸のあたいを、舐め回すように撫でる。裸などこいつには何度も見られているが、こんな拘束された姿ほど恥ずかしいものは今までに無い。 「お前ぇはよ…。今だって勿論イイ女だ。だがよ? 考えてみろよ。仲間うちの筈だったマリアが余所者に犯られて、もっとイイ女に変えられていくのを黙って見過ごせる訳ねぇだろ?」  小男の掌が、優しくあたいの頬を撫でる。   (2015/9/11 22:06:42)

マリア「何、言ってんのさ…。こんな時に。もっと…先にしなきゃいけないことがあんだろ?」  あくまであたいは強気で、小男にそう食って掛かる。 「第一、何だよ。女房に逃げられて意気消沈してる奴が、何でこんな事出来んだよ?」 「まぁな…。それを言われちゃ身も蓋もねぇんだが…。」  頭を掻きながら苦笑いを浮かべる小男。 「俺らは…結局のところ、マリアに惚れてんのさ。お前ぇを極上の女に仕上げるのは、余所者には絶対任せられんってな。」  頬を撫でる手。その人差し指が首筋を通って鎖骨まで至ると滑らせるように優しく擽りだす。 「判ってっか? 俺ら…結構我慢して来たんだぜ?」   (2015/9/11 22:06:53)

マリア 何のことか良く判らなかった。でも、確かに小男の語る言葉の外には、いかにも「あたいを守るための秘密の協定」やらの存在を匂わせてた。若い女が単身でやばい商売を続けていくのは大変なことだ。それでも、あたいは一人で切り抜けてきた…そう思ってたけど。 「だから…判ってくれねぇかな…? これは俺らの義務ってこった。心踊る愉しい義務だがね…。上手く説明できねぇけどよ。本気なんだぜ? マリアを守りたい気持ちってのはよ…。再優先事項ってやつよ。」 「秘密の協定」やらの存在は、薄々気づいてはいた。だからと言って、それは奴らの勝手な言い分であって、唯々諾々と従うつもりなんて、あたいには無い。   (2015/9/11 22:07:00)

マリア あたいの柔肌から指を離した小男がベッドから腰を上げると、ソファの前のテーブルへと向かう。上に置かれてあるバッグを勝手に開けると、何やら物色してる様子。やがて、奴は一本の細い金属の棒を見つけ出した。そう、あたいがバーからくすねてきた…あのマドラーだ。 「このマドラーをくすねて、逃げるように出てったマリアは可愛かったぜ? 欲しけりゃそう言えゃ、くれるだろうことはわかってる筈なのによ。」   (2015/9/11 22:07:13)

マリア 自分の心情は把握出来てなかったものの、小男の言ってることは、多分図星。あたいは、何を想像してるのか…何に使うのか問われるのが恥ずかしくって、こっそり持ちだしちまったんだ…。「何もかもお見通しって訳かい…。」そんな強気の台詞はもう吐けない。 「おっと…。こんなおまけもあったっけな。」  大きな財布の中から、クロム光沢に輝く金属製のロータまで取り出す小男。 「マリアの言う通り…。さすがに今夜は俺がやるには、ちょいと具合が悪い。ま…でも、心配するな。ついさっきマスターに連絡は入れてあっから…。」   (2015/9/11 22:07:22)

マリア 澄ました顔でそんな言葉をあっさりと吐く小男。 「ちょ…ちょっと待っとくれよ…。ねぇ…ま、待ってよ…。」  バーのマスター…。普段は柔和な笑顔を見せているものの、この手の事には超一流との噂も聞いたことを、あたしは思い浮かべる。  そして、階段を上がる靴音が聞こえませんようにと、必死に祈ってた…。   (2015/9/11 22:07:32)

マリア    (2015/9/11 22:07:34)

マリア    (2015/9/11 22:07:36)

マリア    (2015/9/11 22:07:39)

マリア    (2015/9/11 22:07:41)

マリア    (2015/9/11 22:07:43)

マリア【第四話】   (2015/9/11 22:08:33)

マリア 凍てついた寒い夜。音もなくしんしんと振り続く雪。道端で前のめりに倒れた華奢な体にも静かに雪は降り積もる――。真っ白に、全てを覆い尽くし降り止まぬ雪は、まるで汚いものを隠すかのよう…。あたいの体も雪の中に埋もれつつあった…。   (2015/9/11 22:08:40)

マリア それは、五年間の都会生活を離れこの町へと戻って来てから、初めて迎えた冬。クリスマス・イヴのことだった。孤児院の子供たちにささやかなプレゼントを届けに行った帰り途の惨事だ。  ここ数日、身を煩わせる小さな出来事が相次いで起こって、あたいはまともに食事を摂っていなかった。摂る暇が無かった…というのも、言い訳っぽい。要するに生活資金に行き詰まってた訳だ。ただ悲観してはいなかった。クリスマス・イヴで賑わいを見せる街中は、そこらじゅう獲物だらけだ。頂こうと思えば、すぐに頂いちまえる素敵な状況が、あたいを油断させていた。  独り暮らしを始めてからは、クリスマスなんぞ祝ったことはないが、人並みに美味いものは食ってやろうと、冷蔵庫には霜降りの分厚い肉とあたいの舌には判りそうにない大層な値段のワインさえ用意してあった。   (2015/9/11 22:08:48)

マリア ところが…だ。腹が減ってぶっ倒れちまった。こんな人通りも少ない郊外の一本道で…。腹が減って力が出ない。一度倒れてしまうと起き上がるのは困難を極めた。弱った体を睡魔が襲う。 「あたいも、とうとう焼きが回っちまったか…。」  空腹すぎるお腹は、もはや音さえ鳴らない。 「あのシスターめ…。」  あたいとは特に折合いの悪かった施設長でもあるシスターを罵しりたかったが、そんな言葉も探すのも面倒に思えてきた。 「は、腹減った…。」  もう何度繰り返したろう。この言葉。生まれてこの方、あたいが一番使ってきた台詞かもしれない。瞼が閉じそうになる…。 「あたい…死んじゃうんかな…。」  死など怖くは無かった。ただ、自分がこんな死に方をするとは神様も酷なもんだ、と思うだけ。遠くから微かにクリスマスソングが聴こえていた。   (2015/9/11 22:08:57)

マリア「凍死…しちゃうんかな。」  それは痛みも何も感じないと聞く。緩慢な死。その最後に思い浮かべることって何だろう。 「いや。その前に餓死しちまいそうだ…。」  息絶えた体が雪の中から掘り起こされて検死へと回され、死因が特定される…。結果「餓死」。やだやだ。それだけは絶対に避けたい。なんたって恥ずかしすぎる。「お願いだよ、神様。そこにいるんなら、餓死だけは止めて。せめて凍死にしとくれよ。」ん…。まさか最後の願い事がこんなことになろうとは。 「くっそ…。あの肉、食っとくんだったな。」  冷蔵庫に用意した霜降り肉を思いつつ、何かないかとポケット探ると、薄れた感覚の指先に引っかかったものがある。 「ああ。そっか…。」  孤児院でプレゼントのお返しにと、小さな男の子があたいにくれたクリスマスプレゼント。それは一粒のチョコレートキャンディだった。緩慢な動きで口へと運ぶ。 「最後の食事ってか…。ありがと、坊や。」  舌の上の乗せたキャンディが、少しづつ溶け出す。甘いチョコが小さくなっていくのを惜しみつつも、瞼の重さに耐え切れなくなってきた。 「せめて、コレくらい最後まで食わしてくれよ。」   (2015/9/11 22:09:07)

マリア クリスマス・イヴ。その夜、あたいは郊外にある修道院に併設されていた孤児院へと向かったのだ。あたいが育った場所でもある。この町を離れていた時も一年に一度、クリスマス・イヴには必ず訪れていた場所だ。  小さな子供の頃から気が強く、反抗心の塊みたいだったあたいを可愛がってくれる者は、当時からも限られていた。中でも施設長でもあるシスターとはとことん気が合わなかったものだ。今でもこうやってプレゼントを届けに来ただけでも、「何しに来た。汚らわしい売女め。」と、でも、言わんばかりの顔であたいを睨めつける。 「メリークリスマス。」  こんな仕打ち、今さらなんとも思わないが、ありったけの笑顔で応える。宗教なんて…とハナから莫迦にしてるあたいから、こんな言葉がかかることこそ侮蔑とでも感じてくれれば、それはそれで嬉しい。「あんたに、こんな天使の微笑みが出来るかい?」と、若さを失った施設長へのあてつけでもあった。   (2015/9/11 22:09:19)

マリア 中へと入ると、たちまち子供たちが集まってくる。床に膝をついて一人ひとりにささやかなプレゼントを配っていると、ちょっと肥満気味のシスターが姿を見せる。孤児院の寮母だ。 「あらあら、マリア。今年も来てくれたんだね。」  あたいを見て、眉を顰めない唯一のシスターだ。あたいが洗礼を受けた小さな頃から、見守ってくれてた笑顔に再会出来て、心が温かいものに触れたように和みだす。  そう、あたいは洗礼を受けていた。だからマリア。洗礼名が…マリアなのだ。アンリエッタ・マリア…本当の名前がそこに冠されていた。 「せっかく来たんだから、食べて行きなさいよ。余り物ばかりだけど、今夜の余り物はちょっと贅沢よ。」  寮母が食事を出してくれようとした。腹ぺこだったお腹が、きゅるるるっと鳴って、あたいは顔を赤らめ、冷やかす子供たちの明るい笑い声が響く。   (2015/9/11 22:09:52)

マリア「余計なこと、するんじゃないよ。」  そんな雰囲気を一瞬で振り払うように、背後から冷たい声が響いた。施設長のシスターだ。寮母といえども逆らうことは出来ず、賄いの手を止めなくてはならない。部屋の空気が張り詰める。 「あ。あたい、すぐ帰らなきゃいけねぇから…。」  そう言って、あたいは立ち上がる。部屋をでる間際にちょっとだけ振り返っては、施設長に見つからないように寮母へと小さく手を振ると、申し訳無さそうな顔をした寮母も、小さな笑顔を無理やり作って手を振り返してくれた。   (2015/9/11 22:10:00)

マリア 本当にこれが最期と覚悟を決めたあたい。二十数年の短い人生だったが、まあ…そう悪くもないとも思う。 「もう少し、いいモン食いたかったな…。」  まだ霜降り肉に執着するあたい。霊になったら肉の背後霊にでもなりかない。 「もう少し、ヤリたかったな…。」  こっちは、そこそこ満足してる。あたいは快楽を受けるために生まれてきた…そううそぶきたくなるほど、豊かで彩りのある経験。ひとつだけやり残したこともあるけど…。 「もう少し…。」  あたいの瞼がゆっくりと閉じていく…。   (2015/9/11 22:10:14)

マリア「マリア! おいっ、マリア。起きろ。起きろーっ。」  死んだ筈なのに、あたいの名前を呼ぶ声がする。その声は遠くから聞こえて来てるようでもあり、耳元で怒鳴られているようにも思えた。 「天国でも、寝坊は禁止ってか…。」  ここに至っても口の悪いあたいが悪態をつく。ここが天国と限るわけではあるまいに…。 「こらー。マリア。目ぇ覚ませーっ。」  ベチベチっと頬を叩く音だろうか。微かな感触は感じるものの全然痛くない。体を無理やり起こされ、肩を散々揺すられたあたいは、面倒そうにようやく瞼を微かに開き始める。「おいおい、よしとくれよ。天使っつうのは、もっと可愛いもんだぜ。」あたいの瞳におぼろげに映ったソレは、それはもう…貧相な顔立ちの天使だった。   (2015/9/11 22:10:23)

マリア こうやって、あたいは救われた。  あたいと変わらぬ背丈しか持たない小男は、首に巻いていたマフラーをあたいの頭に覆うように被せると優しく抱え起こす。あたいを背中におぶったまま、猛吹雪へと変わりつつある雪の中、およそ五キロにも渡る一本道をひたすら歩く。その背中から時折、様子を伺う奴の声が聞こえていた。その背中は、おぼろげなあたいの意識の中で、たった一つの温もり。心地よい素敵な暖かさだった…。  あたいをどうにか町へと連れ帰ってくれた頃には、既に日付も変わって、町は昼間とはうって変わって閑散としていた。馴染みの古いバーにまだ灯りが付いているのを見つけた小男は、あたいを背中に乗せたままバーの扉を開く。  突然、扉が開かれる。賑わっていた客は帰った後で、疲労困憊の店主風の男が暖炉の前のソファに腰掛け一息つきながら、ビールを呷ってたところだった。強い風を伴った雪が店の中へと舞い込む中、思いもよらぬ来客にも嫌な顔ひとつせずに、彼は迎え入れてくれた。   (2015/9/11 22:10:33)

マリア 暖炉の前に正面に向くよう急遽向きを変えられたソファの上に、あたいは寝かされた。当然の様にあたいを受け入れ、あたいを寝かせつけることを優先した後、改めて、扉を閉じる白シャツに黒いベストの男。 「こいつは、タダ事じゃねぇな。」  外を吹きすさぶ猛吹雪を眺めて男がぽつり。窓には雪が狂ったように叩きつけられている。 「ああ、ああ…。とんでもねぇめに会っちまった。済まねぇな、マスター。」  コートを脱ぎ捨てた小男。額はおろか、顔中に噴き出た汗が氷になって、その上に雪が吹き付けられた酷い有様だ。手で顔を拭うとあたいの容体を確認するように覗きこむ。 「その娘か? 前に話してた…。」  心配そうにあたいの寝顔を覗き込む小男に、マスターと呼ばれた男が近づくと、そう声を掛ける。 「ああ…。この娘が、マリアだ。」  小男と雁首を並べるように、マスターもあたいの寝顔を覗き込む。 「…こりゃ、確かに可愛い娘だ。」   (2015/9/11 22:10:43)

マリア しばらくして、あたいは目を覚ます。  そっと開いた瞳を覗き込むオヤジの顔が二つ、すぐ目の前に現れた。 「きゃあ…あああーっ。」  飛び起きるように体を起こすあたい。 「きゃあ…は、ねぇだろ。きゃあ…は。」  狼狽するあたいの前で、笑いながら小男が呟く。隣でうんうんと頷くマスターの柔和な顔。 「いったい…あんな所で寝てるなんてよ。ヤってる途中で彼氏が逃げ出しちまったか?」 「な、なんだ。このノリは…。」と、頭を抱え込みたくなる。言いたくねぇ事は言わねぇし、言えねぇ事も言わねぇが、助けてもらっておいては、黙ってる訳にもいくまい。あたいは、ぼそぼそっと経緯を語り始めた。  孤児院で育った事、都会に行って戻ってきた事、プレゼントを子供たちに届けに行った事…などなど。商売の事はまだ話せなかった。ただもう施設長のシスターの事に限ってはあらんばかりの罵詈雑言を使い、手振り身振りも加えて大げさに説明した。 「あの婆さんが口を挟まなきゃ、あたいはあんな目に会わなかったんだよ。」  なおも罵り続けようとするあたいを制するように、きゅるるっっとお腹が鳴った。   (2015/9/11 22:10:53)

マリア「がっはっは…。餓死しなくて良かったな。」  大声を立てて笑いながらあたいの肩を叩く小男。マスターは腹を空かせたあたいの為に、厨房へと食べ物を取りに向かう。 「冗談じゃ無ぇよ…。全く。笑い話に聞こえるかもしんねぇけど、凍死か餓死かの瀬戸際だったんだぜ?」  クリスマスパーティの余り物と、小分けに切られたクリスマスケーキをマスターは用意してくれた。 「ありがてぇ…。戴くよ。」  腹が減って死にそう…っていうか、本当に瀕死だったんだ。だけど、貪るように食いたかったのに…思ったほどに胃は受け付けてくれなかった。 「散々なクリスマスだったな…。」  幾つか口に運んだものの、途中で食べる手を止めたあたいに、「遠慮しなくてもいいんだよ?」といった風のマスターがそう声を掛ける。 「クリスマスなんて、昔から一度もいい思いしたこたぁねぇよ。」 「ご馳走さん。」とばかりに小さく頭を下げるあたい。「修道院に付された孤児院なのに…?」と顔を見合わせる小男とマスター。 「あんな儀礼的なことばかりでさ。つまんねぇったらありゃしない。だから、あそこを出てからもクリスマスなんて一度も祝ったこたぁ無ぇのさ。」   (2015/9/11 22:11:03)

マリア「なるほど…ね。」  マスターが燭台に乗せられた一本の蝋燭を持ち出してきては、テーブルの上へと立てつつ相槌をうつ。さらに忙しく立ちまわるマスターが、安ワインと三客のワイングラスを手に戻ってくる。 「じゃあ、シャバに出てからのクリスマス初体験といこうか。」  マスターがワインを三つのグラスへと注ぐ。 「いいねぇ。初体験も可愛い娘も、俺ぁ、どっちも大好きだぜ。」  小男がそう言いながらグラスを翳す。店の灯りは消されて、暖炉の灯りと蝋燭の灯火だけ。外はものすごい音で唸る猛吹雪。あたいもマスターもそれに倣ってグラスを手にすると、蝋燭の灯火の上で三つのグラスが重なって素敵な音を立てた。 「メリークリスマス!」  マスターがそう声を出したが誰も復唱しない。「おいおい…。」とおどけた顔をするマスターに、遅れてあたいも小さな声で同じ言葉を呟いてみた。   (2015/9/11 22:11:13)

マリア「…もうっ。勘弁しとくれよーっ。」  いつしか始まった脱衣ポーカーは、夜明け近くまで続いていた。ポーカーフェイスに長けるマスターが強すぎる。もう一人勝ちもいいとこ。あたいは役になってないカードをテーブルへと投げ捨てて、何度目かの泣き言を吐く。 「だめだめ。こういうのは、ちゃんとルールを守らないと白けちゃうから。」  そう言ってニヤリと笑うマスター。 「それにしたって、手加減っつうもんが…。」  責めるような二人の視線に渋々背中へと腕を回すあたい。ブラのホックを外すとゆっくり肩紐を下ろしながら片手で胸を隠す。今回は負けを逃れ、あたいの胸元へとニヤついた視線を寄越す小男だってあたいと大差ない半裸姿だ。 「おっし。これがラストだ。」  嬉々としてカードを配り直すマスター。あたいと小男は視線を合わせると、肩をすくめた。   (2015/9/11 22:11:26)

マリア「参った…。参りました。」  カクっと、うな垂れたあたい。 「いよいよ…だねぇ。」  ニンマリと笑みを浮かべつつ、ゴクリと唾を飲み込む真似をしてみせるマスター。 「じょ、冗談…だろっ?」  真剣そうな表情に、思わず席を立って後ずさるあたい。 「頼むよぉー。み、見逃して。こ、これだけは…。い、イヤだってば…。」  唯一残された薄地の白いショーツ。コレだけは剥かれる訳には行かなかった。初対面からヘアレスのあそこを見られるのだけは何としてでも阻止したい。  小さく震える両手で前を必死に抑えるあたいは、内腿を擦り合わせながらオロオロするばかり…。   (2015/9/11 22:11:36)

マリア マスターが「やれっ」と言わんばかりにクイッと顎を向けると、待ってましたとばかりに「へいっ」っと発して使いっ走りになった小男があたいの背後に回る。  端を摘まれ下へと引きずり降ろされるショーツ。生まれたてのような初々しいお尻がプルンと剥かれ、その谷間が恥ずかしそうに顔を出す。 「こ、こらぁ…。や、やめろぉぉ…っ。」  必死に前を抑えるあたいと、後から引っ張る小男の間で、ショーツは細長く引き伸ばされていく…。 「や、やめてくれ…。た、頼むよぉ…。あ…ぁぁん…。や、やめてぇ…っ…。降参。降参だってば…。お店の手伝いでも…なんでもするから。あんっ…いやぁん…。」  エッチする時に脱ぐのとは訳が違う。こんなに恥ずかしそうな表情を見せるのは初めて。でも、無理やり裸にされてしまうっつうのに……。こんなに楽しそうな表情を見せたのも初めてだった…。 「そのくらいにしといてあげようか。」  あと僅かで割れ目さえ晒してしまいそうなところで、マスターが小男にストップを掛ける。   (2015/9/11 22:11:47)

マリア「…ったく。やり過ぎだってば。」  ぶつぶつとまだ拗ねてるあたいに、毛布を掛けてくれたマスター。  散々笑い転げた三人もそろそろ睡魔には勝てなくなってきた。三人三様、ソファの上に勝手に横になると、やがて男どもの鼾が響き渡る。眠り込むオヤジ二人の顔を交互に眺めながら、あたいの心の中には温かいものが広がっていく感じがした。   (2015/9/11 22:11:56)

マリア 伝えなければいけないことが……ある。  あたいは、だらしない顔をしてソファに眠る小男の顔の前に、まるでキスでもしそうな程、顔を近づけて隣にそっと座り込む。  人差し指で奴の鼻の頭を、つんつんと突付いてみる。全裸に毛布を被っただけの姿は、もしも見てる人がいるとしたら、多分「ねぇ。…エッチしよ。」と誘ってるかのように見えるかもしれない。目を覚ましてくれない小男の鼻をもう一度突付くと、「……ん?」っと、奴の片目が開く。  顔をさらに急接近させ口を奴の耳元へ寄せると、ひそひそ声で呟くあたい。 「……ごめんなさい。」  もう一方の目を開けながら、ポケットに手を入れ財布を出した小男は、二つ折りになった小さな紙切れを取り出す。……見覚えがある。紙切れを開き、書かれてある言葉をあたいに見せた小男が、ひそひそ声で返す。   (2015/9/11 22:12:08)

マリア「これの…ことか?」  黙って頷くあたい。 「実はあたい。あんたの……」  そこまで、口に出しかけたところで、小男の人差し指が「しーっ」とでも言うように、あたいの唇を遮る。 「二度も謝ることはねぇ。」  やはり、気づいていたのか…と、思う。 「で、でも…。あたい……。」  さらに言葉を続けようとするあたい。その髪をくしゃくしゃと掻き乱すように撫でた小男。 「気にすんな。」  奴はもうひと言そう付け足すと、あたいの頭を引き寄せる。そして……。何てことか。あたいの可愛いピンクの唇に、その薄汚い唇を軽く重ねたのだ。 「う、嘘だろ?」言葉にはしないものの、一瞬たじろぐあたいに、見事なまでに似合わないウインクを一つ見せると、奴は再び目を瞑った。「わわわ……。」と数秒間、固まってしまったあたい。   (2015/9/11 22:12:21)

マリア 気を取り直して、もう一つ伝えなければいけないことがあった。お礼さえまだだったのだ。 「……助けてくれて、ありがとう。」  眠った小男に、そう語りかけると、あたいは自分の寝場所へと戻る。瞼を閉じたままの小男の頬が少し緩んだ。  薄目を開けて、そんな情景を見てしまったマスターが慌てて目を瞑る。 「マスターもね……。」  ちらりとマスターへも視線を向けてそう呟くと、あたいはそっと体を横たえた。   (2015/9/11 22:12:29)

マリア それにしても、「初体験のちっぽけなクリスマスパーティ」は本当に楽しかった。つい、さきほどの事を思い出して笑みを浮かべるあたい。  心の中にひとつ、初めて愉しい思い出が刻まれた。「今夜はぐっすりと眠れそう…。」だ。そう独りごちると静かに瞼を閉じる。   (2015/9/11 22:12:39)

マリア「美味かったな…。」   (2015/9/11 22:12:46)

マリア 三人で交わした安ワイン…。あの安ワインの旨さを、あたいは生涯きっと忘れないだろう…。  そんな予感がした。   (2015/9/11 22:12:53)

マリア「お、起きたら、うがいしねぇとな……。」  あたいの頬は少し赤らんでいたかもしれない。   (2015/9/11 22:13:01)

おしらせ無言時間が20分を超えたため、マリアさんが自動退室しました。  (2015/9/11 22:33:59)

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